お誕生日を祝おう! 2006年の田島様バースデイ企画、は。 お題を使って拍手でお祝い、でした。 キスにまつわる20の御題 01.ご挨拶 02.肩越しに触れる 03.腕を引く 04.泣き顔 05.冷たい手を温める 06.お礼 07.ごめんなさい。 08.我慢できない 09.眼鏡を外す 10.仲直りのちゅー 11.無理やり 12.背伸びをする 13.寂しいの 14.初めて 15.何味? 16.不意打ち 17.弱み 18.告白した 19.それは反則!! 20.ばいばい。
ご挨拶 「はよーっす!」 「お、はよ」 空は真っ青、雲ひとつない。 風も気持ち良い。 サイッコーの朝。 だって今日は誕生日だ! お天気のカミサマにもおめでとうって言ってもらえてるみたいで嬉しい! でもって最初に会ったのが。 「! た、田島、くん!?」 「ほっぺにちゅーは挨拶なんだぜ? だから三橋も俺のほっぺにちゅー」 すべすべでふにふにでやらかくて白いのが。 ぱぱぱーって茹蛸みたいになる。 すっげぇ可愛い! 超好き! 「お、はよう、ござい、ます」 「おはよ!」 俺がしたのより早く終わっちゃったけど。 やらかいのがほっぺに一瞬触って離れてった。 「今日は良い一日になるぞー!」 「そう、なの?」 「おう! 俺が今決めた!」 にししって笑えば、ふにゃって笑う。 すっげぇ良い朝! ▲上に戻る
肩越しに触れる 「あぶね!」 「!!」 三橋が階段一歩踏み外して。 慌てて一段下で支えた。 今日は珍しく俺が前歩いてなくて。 後ろ歩いてて。 (良かった、マジで!) 後ろ歩いてなかったら、助けらんなかったもんな。 「だいじょーぶか?」 「う、んだい……」 俺を振り返った三橋と。 三橋の顔覗き込んだ俺の。 口と口が、くっ付いた。 (これって、ほんもののちゅーじゃん!) 「あ、ご、ごめ」 「いーっていーって。それよりもほら」 さっき食べたチョコの味が少しする。 でもさっき食べたのよりもずっと甘い。 「え、と」 「手! 繋いだら転ばないだろ!」 「うん!」 すぐに離れてっちゃったから良く分かんなかったけど。 もっとずっとしてたら。 柔らかさも甘さも、もっと。 もっと、分かるかもしれねー。 ……ちゅー、してぇかも。 ▲上に戻る
腕を引く 確かに他のクラスの奴から見たら。 ちゃんと知らない奴から見たら。 すげぇ腹立つのかも知んないけど(だって阿部がそう言ってたから) 「お前ら三橋泣かしたらただじゃおかねえかんな!」 なんか三人くらいでかいのが目の前に立ってて。 三橋が泣きそうな顔、してた。 「なんだお前?」 「9組の田島だろ? ほら、同じ野球部じゃん」 「野球部なら教えてくれっかもよ? なんでこんなめそめそしてんのがエースなのかさ」 かちんって火が点く。 でも、俯いた三橋の頭見たらそんな火、まだ温い。 「確かに三橋は良く泣くけど! でも投げてるときは凄いんだ! 知らない奴が悪口言うな!!」 俺の声もでかくて、びくって三橋が震える。 ごめん、でも、お前のことは譲れないから。 「こんな奴ら気にすんな。行くぞ、三橋」 「た、じまく」 「俺ら皆お前がエースなの分かってる。すげえって思ってる。だから泣くな!」 腕引いて、廊下に縫い付けられてたみたいな足を引きずる。 左腕、強く引いた瞬間に凄く近くなった顔に。 ちゅー、しかけて止めた。 泣いてんの、笑わせるちゅーはこんな苛々してるまんまでしても意味ないから。 ▲上に戻る
泣き顔 顔真っ赤にして。 でも声は上げないで。 鼻を啜るのと、ひっくひっく言ってるのだけが、聞こえる。 「怒鳴ってごめんな」 「そ、んな」 「お前でっかい声苦手なのに、怒鳴っちゃったもんよ。ごめんな? びっくりした?」 ぶるぶる横に首振って、でもその目の端から零れた涙が飛び散る。 ぐいぐいって、擦ろうとする手、捕まえた。 「田島、くん?」 「擦ったら腫れちゃうんだってねーちゃんが言ってた」 まだ涙が溜まってる目元に、口寄せて。 しょっぱいそれを舐める。 ……しょっぱいけど、甘い。 「た、じまくん!」 「泣き止んだ!」 やった、と笑えば三橋も笑う。 それが、なんかすげぇ嬉しい。 ちっちゃいコトかもしんねえけど。 「あ、りがとう」 「おう!」 ちっちゃいコトでも、すげえ、嬉しい。 ▲上に戻る
冷たい手を暖める 泣き止んだ三橋の手を握ったらまだ冷たかった。 まだ、なんか困ってる? 嫌なこと、なんかある? 「手、冷たいのな」 「あ、ご」 「謝ることじゃねーんじゃん? あっためりゃいーんだもんよ」 ぎゅう、と握りこめばちゃーんと温かくなる。 なんなかったら、なんかある証拠。 別に阿部じゃなくたって知ってる。 あっためかたも、ちゃーんと知ってる。 「俺と一緒は、きんちょーすんのか?」 「ち、がうよ」 「んじゃまださっきの怖かった?」 でっかい奴は怖い。 だって力も強いから。 三橋が何されてたのか知ってる。 だから話すときは同じ高さで。 ……俺はいつも同じだけど! 花井とか浜田とか巣山がそう言ってたの、ちゃーんと知ってる。 「いつだって呼んで良いんだぞ? 嫌だって、怖いって、言って良いんだ」 「で、も」 「だいじょーぶだって。ちゃーんと俺がそばにいるから。な?」 なんだっけ、なんかあった。 手にするやつ。 「う、ひゃ」 「誓いのちゅーな! うん、手もあったかくなった!」 ちょっとずつだけどあったかくなってくる手が。 きゅって俺の手を握り返してきた。 「田島くん、は、すごい、ね」 「三橋が言うんならそーだな!」 そやってきらきらした目で見てくれるんなら、俺はいっつもすごい俺でいたい。 ▲上に戻る
お礼 「あ、あのね」 「どーした?」 ごそごそって、ズボンのポケット探って。 「こ、れ、どうぞ」 「あめ? 食って良いの?」 「う、ん!」 おっきな飴玉一つ、俺の手の中に乗った。 オレンジの包み紙の、これ、最後の一個。 おやつにするって、言ってたのに。 「あのね、俺、ありがとう、もっと、たくさん」 田島君に、たくさん、たくさんもらってるから。 俺も、返したいんだって。 だから、もらって、って。 「ありがとな!」 ぺりぺりってはがして、口の中に放り込めば。 いっぱいにオレンジの味。 こくり、ってちっちゃいけど。 三橋の喉が鳴る音が聞こえたから。 がりって奥歯で噛んで、半分にして。 「みひゃし、みひゃし」 がしって肩掴んで、こっち向かせて。 あーって口開けたら、三橋もつられて口開けたから。 「半分こ! な!」 「……うん!」 ありがとうの気持ちは嬉しいけど、一人で全部じゃなくて。 嬉しいを二人で半分しても、減らないから。 「んまいなー」 「だ、ね!」 にこにこしてくれたら、半分じゃなくて、倍、だった。 ▲上に戻る
ごめんなさい。 「おーまーえーらーなー」 「ご、ごめんなさい」 「悪かったってー。でもさー、ほんとに悪いのは三橋苛めた奴らだぜ?」 そういや授業ってことつるっと忘れ果ててて。 んー、チャイムとか鳴ってたっけ? って世界だった。 「サボるとそこのバカみたいになんだからな?」 「ちょ、泉ひでー」 「テストで赤点取ると部活できなくなっちゃうんだぞ?」 「ひ」 「あー、そりゃ困るな、ゲンミツに」 「だったらとにかくサボるのだけは止めとけ。分かったか?」 「は、い」 「あーい」 「ま、三橋馬鹿にされたら俺だって黙ってられないから阿部には黙っててやるよ」 くしゃくしゃって三橋の頭撫でて。 ぽんって俺の肩叩いて、泉の説教タイム終了。 しょぼんってしてる三橋に、悪かったなーって思う。 あのまんま教室に引っ張ってくるのもできたし。 そしたら泉とか浜田だって慰めたと思うのに。 でも、なんか。 「嫌だったんだよなー」 「う、ぇ?」 「三橋が嫌なんじゃないからな? そこんとこ間違えんなよ?」 「う、ん」 しょぼんってしてるの見てると、笑って欲しいって思う。 笑ってんの見てると、ずっとそーしてて欲しいって思う。 「あの、ごめんな、さい」 「なにが?」 「俺の、せい」 「違う」 欲しいのは、ごめんなさいじゃなくて。 さっきみたいな、の。 「うひゃ」 「うし! やーっと笑った」 ぎゅーって服の裾掴んでた手を引っ張り上げて。 強張ってた指にちゅってしたら、顔真っ赤にして。 でも、笑った。 ん、やっぱこっちが良い。 「ごめんなさいよりもそやって笑ってる方がずっと良い!」 「そう、なの?」 「おう!」 じゃ、あ、頑張る、って言うから。 頑張れって言っといた。 ▲上に戻る
我慢できない 「そういや昔さー」 「は、ハマちゃん!」 浜田と三橋は幼なじみってやつだったってのは、知ってる。 だから昔の三橋を浜田が知ってるのも、分かる。 分かるんだけどさー。 「そーいう顔すんな?」 「そーいう顔ってどんな?」 「いかにも気に食わないって顔」 泉も近くに住んでたらしいけど、同じクラスになったことないから知らないって。 だから二人だけ。 二人だけで話してるわけじゃないし、内緒話でもないんだけどさー。 「で、犬に追っかけられたんだよな」 「う……」 「ああ、だからアイちゃん苦手なのか」 「大きさの問題じゃなくて犬ってのがそもそも大問題なんだよなー、三橋」 こくこく青白い顔で頷く三橋は本当に犬が苦手で。 その原因がちっちゃい頃にあんのは分かったけど。 「じゃー慣れれば良いじゃん。アイで」 「!」 「や、無理じゃねえか?」 「無理じゃねえよ!」 思ったよりも大きな声が出て。 しまったって、思ったけど。 「ご、ごめんなさ」 「あーもー、三橋のせいじゃないんだから泣くな?」 泉に頭ぐしゃぐしゃってやられて泣き止んでる三橋見たら。 なんか、俺の中がぐちゃぐちゃになって。 「た、田島!?」 「おい、どこ行くんだよ」 「分かんねえ!」 三橋の手、掴んで教室飛び出してた。 「田島、くん」 「……」 「い、たい、です」 「! あ」 離したら、左手だったけど赤く俺の手の痕がくっきり付いてて。 痛い思いさせたのは俺なのに、三橋の方が申し訳ないって顔してて。 ……なに、してんだろ、俺。 「俺、ぐちゃぐちゃしてる」 「え?」 「ごめん」 開けたら屋上に出られるドアに三橋の背中押し付けて。 キス、してた。 ▲上に戻る
眼鏡を外す 「た、じま、くん?」 「ほんと、ごめん」 俺にも、俺が何がしたいのかが、分からない。 「どう、して?」 「なに、が」 「泣いて、るの」 「……俺、泣いてんのか?」 ぺたって俺のほっぺに、触ったのは。 冷たくない、あったかい、手。 「なにか、嫌な、ことが?」 「ない、と思う」 「でも、泣いてる、から」 離れて、いく手に。 手を伸ばそうとしたら。 「み、はし?」 「さっき、こうして、くれたでしょう?」 代わりに近付いてきたのは、三橋の顔で。 目元に、触れたのは。 「だい、じょう、ぶ?」 いつもよりずっと近くで三橋の声がする。 優しくくすぐる目の横。 ……ざわざわしてたのが、落ち着いた。 ばくばくし始めたけど。 「大丈夫、だと思う」 「……良かった」 なんか、ちょっと。 苛々してた理由が、分かった気がする。 ▲上に戻る
仲直りのちゅー 苛々してたのは、きっと。 「三橋、浜田のこと好き?」 「?」 「泉は、阿部は、花井は、水谷は、栄口は、巣山は」 「皆、好き、だよ?」 「だよなー」 はふっと息を吐いて、もう一つ。 「じゃあ、俺は?」 「うん」 「俺は三橋が好きなんだけど」 「俺も、好きだよ?」 あああーもー! 伝わって、ねーじゃん、よー!!! 「田島君?」 「あーもー超好きだかんな! むっちゃくっちゃ好きなんだかんな!」 ちゅーはぜーんぶ。 好きな奴にしなきゃなんねえんだぞ。 それ以外の奴にしちゃいけないんだぞって。 言ったって、俺だけになりそうもないから。 「大好き、だよ?」 ふわわんって笑う三橋の好きは俺とおんなじかも。 うん、とりあえずおんなじにしとこ。 「俺も、大好き!」 がばーって抱きついてぎゅーってして。 真っ赤なほっぺにちゅーってした。 ▲上に戻る
無理やり 口と口をくっ付けるちゅーって、なーんかが違う気がする。 「なー、映画みたいなちゅーってどうやってすんだ?」 昼飯のとき。 皆いっから聞いてみたら、ぶはーって吹き出された。 「きったねーなー」 「……お、お前、なあ」 「ちょっとびっくりしちゃったよ」 「あ。阿部が白目向いてる」 「とりあえず三橋の耳には入んなかったからギリセーフで」 花井はごほごほやってるし。 水谷は持ってたパックのストローの先から噴水。 阿部は目開けたまんま寝てる。 栄口と泉はそうでもないけど。 「なー」 「んー、田島はそれがしたいの?」 「おう。ちゃんとしたちゅーだろ?」 タオルで手を拭きながら聞いてくる水谷に答える。 なーんかさっきまでのちゅーは違う気がすんだよな、ゲンミツに。 「無理矢理やると嫌われちゃうみたいだよ」 「へー。なんで?」 「こないだ姉ちゃんが半ギレで歯磨きしてたからさー」 「そーいうもんなんか。ふーん」 でもなんでちゅーで歯磨きすんだ? 「水谷、詳しく説明するならどこか遠く……ああ、こっから落ちてみる?」 「ひぃっ!」 「田島、そういうのは昼休みに相応しい話題じゃないぞ」 「じゃーいつすんだよ」 ぶーたれたら阿部と三橋以外の目が泳いだ。 ? これワイダンけーなのか? んー、兄ちゃんの部屋漁ってみっか。 ▲上に戻る
背伸びをする 「むー」 「どうした、の?」 俺よりも困った顔で俺の顔を覗き込む三橋の。 ほーが、背が、高い。 ほんの、ちょびっと。 「た、じま、くん?」 でもって俺が急に立ち止まったもんだから。 階段、一段上にいる三橋はずっと高い。 「三橋、ちょっと手すり掴んでてな」 「?」 手を伸ばしてほっぺに触れて。 ちょい、と背伸びをして。 「すぐに逆転すっからな」 「? ぎゃ、く?」 「気付くまで内緒ー!」 ちゅ、と触れるよりもっと。 掠めるくらいの、キス。 「りそーは15センチだってさ」 「???」 分かるようになる頃には、ばばーんと背中に庇えるようになってっからさ。 ▲上に戻る
寂しいの 生まれてからずっと。 たくさんの人に囲まれてるのが当たり前、だったし。 当たり前、だから。 「留守番って、三橋ひとり?」 「う、ん」 「さみしくねーの?」 「もう、慣れてる、よ」 ひとり、に? それともさみしい、に? 「えー、そんなん俺絶対無理だ」 「田島くん、ち、は、いっぱい、いる、ね」 「そ。だからそんなん絶対寂しい!」 だってあんなでっけーうちに三橋ひとりは寂しい。 誰もいないのは、怖い。 「うちくりゃ良いじゃん」 「え」 「いっぱいいっからひとりくらい増えたってどってことないもんよ」 「でも」 「三橋が寂しいのは俺も寂しい」 「……田島君、も?」 「俺も!」 ぎゅーってひっつくのが安心するやつが。 寂しかったら、俺も寂しい。 「そうだ、寂しくなくなるおまじないしてやる!」 背中に一を書くのと同じ。 両方の瞼にキスをする。 「こうしたら、俺がぎゅってしてるの、思い出せっだろ?」 「うん。ありが、とう」 でも我慢できなくなったらすぐに呼んで。 自転車飛ばして、抱きしめに行くから。 ▲上に戻る
初めて 「は、じめ、て?」 「あー、幼稚園時だったんじゃねえか?」 「俺もそんくらい!」 「……何の話してんの、坊ちゃんたち」 顔に教科書の跡付けた浜田が寝ぼけた顔で聞いてくるのに。 泉が下敷きになってた教科書を指差した。 「初恋。お前本当に後輩になっちまうぞ」 「あははは……で、三橋は?」 「え、おおおお、お、れ?」 ふるふるふるふる。 何回も首振って、取れるんじゃないかっていつも思うんだけど。 「ああ、まだなのか」 「え、俺じゃ……ぐはっ」 「へーそーなのか」 沈まされた浜田は放っておいて。 そっか、まだだったのか三橋! 「……あからさまに嬉しそうな顔すんな、田島」 「えー、駄目かあ?」 「まぁ、そこがお前の良いところかもしれないけどな」 「へへ」 だってそしたら俺が全部初めてになれるかもじゃん。 「あ、初恋はまだでもキスは?」 「き、す? ……!」 「三橋?」 ……あ、違った。 「それナシ!」 「は?」 「あ、ナシじゃなくてアリ?」 「だから何だってんだよ」 「え、初ちゅーだろ、三橋の」 「た、じまくん!」 ▲上に戻る
何味? これあげるーって。 授業終わって、ショート終わって、掃除無くて、教室飛び出す前。 もらった飴玉、口の中で溶けるたびに味が変わっていく、おもしれー飴。 「みひゃひ」 「はひ?」 ちょいちょいって膨らんでるほっぺつついて。 「はひあひ?」 「んー、ひひひょ!」 べ、って出した舌の上に乗ってるのはピンクの飴。 あー、イチゴかー。 「ほへはふほー!」 「!」 俺のはぶどう。 良いなー、イチゴ。 で、三橋はぶどうの方が好き。 ……! そうだ! 「ん、んっ……」 ころん、と口の中にイチゴ味。 「ほーはん、な!」 親指を立ててに、と笑えば。 「交換、じゃねぇよ!」 「! ひひゅふぃ!」 「お前ら、そういうのは部室ん中だけにしろよ」 べちって泉に頭をはたかれた。 三橋もぽん、って軽くだけど。 「ひゃんへ?」 「なんでも。そーいうのは道端ですることじゃねえんだよ」 「「ん」」 二人でうんって頷いて。 口の中、溶け続けてる飴の味、変わったから。 急いで部室に向かって走った。 ▲上に戻る
不意打ち 「あいた!」 すこーんって、トンボが俺に一直線に倒れてきた。 「くぅーっ」 「た、だ」 「いってーけど、だいじょーぶ」 「で、お」 「あー、うん。ちょっと赤い? てかたんこぶんなってねえ?」 俺より痛そうな顔した三橋が。 真っ青になって、しゃがみこんだ俺と同じ高さで。 泣きそうってか、もう泣いてるし。 「あ、か、は、て」 「そっかー、あ、そうだ。三橋、手」 「て?」 「お前の手、ひんやりしてるじゃん。手、かして」 ぺたって、くっ付けたら。 あー、気持ち良い。ちょいずきずきすっけど。 でも、この手、ひっ付けててくれたら。 「痛いの、痛いの、飛んで、いけ」 「え?」 「あ……」 耳元で聞こえた小さな声が。 すげぇ、優しくて。 「今の、もっかいやって?」 「痛いの、痛いの、飛んでいけ」 「……もっかい」 「痛いの、痛い……田島、くん?」 ぎゅ、って掴まえて。 え、え、って。 困ってる、三橋の、掴まえたてのひらに。 「……泉」 「……ああ、部室でやれって言っちまったんだよ。悪い、花井」 「阿部、いなくて良かったね」 ▲上に戻る
弱み 「もう大丈夫だと思うけど。一応、ね?」 「ん。あんがとな、しのーか」 「うん。気を付けてね」 「分かった!」 ぺたっておでこに貼られた冷えぴた。 ずれちゃうと邪魔になるからって、テープでぺたっと。 剥がすとき、べちゃーってのが髪の毛にくっ付くのと。 べりべりってテープ剥がすのがちょっとやな感じだけど。 「ちゃんと手当てしてもらったぞ!」 「威張るとこじゃない!」 「もう、痛く、ない?」 「おう。でも三橋の手のがずっと良いな」 「……たーじーまー」 グランドのベンチの三橋にべちゃって抱きつく前に阿部に引っぺがされた。 っだよもー。 「お前は俺の三橋に何をさせた?」 「ぶー、違いますー! 三橋は阿部のじゃないもんね!」 「「ああ、そりゃ確かに」」 「栄口、泉!」 二人を振り返ってる間に、三橋の隣に並ぶ。 「三橋の手、すげぇんだぞ」 「そ、うかな」 「すげぇよ。な、もっかいやって?」 しゃがみこんで、目を閉じて。 ゆっくりそれが、近付いてくるのを。 「みは、し?」 「……あんまり、冷たくない、ね」 「どろどろしてる方のが冷たいんじゃねえの?」 「あ」 「でも俺はこっちのが好きだ」 てのひらは、まめが潰れたり、ごつごつしてる。 けど外は、すげぇ綺麗な、手。 「こっちのが俺には効くって。絶対」 だって他の誰でもない三橋の手だから。 ▲上に戻る
告白した 「そういえばさー、今日見かけちゃったんだよね」 「何を?」 「呼び出し?」 「ああ、もうそういう季節か」 「二学期も半ばまで終われば、まあ、後はクリスマスを前にしてって魂胆だろうね」 「……なあ、これからイベントとして最大なのって、さ」 「「……誕生日は恋人と?」」 練習が終わって着替え始めた部室の空気は、正直面白い。 いつもはぱぱぱーっと着替えてばたばたっと飛び出していく田島が。 いつもいつもゆっくりと着替えて最後まで残っている三橋を。 せっつくでも焦らせるでも手伝うでもなく、待っている。 横でどうしたもんかって悶々としてるのが、阿部。 で、それをはらはら見守ってるのが花井と水谷。 半分楽しんでるのが俺、栄口、巣山。 西広と沖は篠岡に協力するためにさっさと退散した。多分一番賢い。 さて、誰が最初に口を開いたもんか。 「三橋、コンビニ寄ってこーな」 「う、ん」 ……普通、だ。 「普通じゃねぇ?」 「普通すぎてちょっと変だよ」 「だよな」 「てか思い当たる節ないの、9組」 「えー? ……あー」 ありすぎて、思い当たらない、というか。 「そーだ、三橋」 「な、に?」 「俺と付き合って」 「は、い」 「じゃ、そーゆーことだから。また明日なー」 「また、明日」 ……おお、これは。 「思い当たる節も何も今物凄くストレートだったぞ」 「だねえ……おーい、花井、大丈夫ー?」 「あ、ダメダメ。阿部も花井も燃え尽きちゃってる」 ちょいちょいと水谷に指先でつつかれても復活しない。 相当な燃え尽きようだ。 「あれ、でも今日じゃないよな」 「? 巣山、何が?」 「いや、田島の誕生日。明日だろ?」 「……だよな」 「いや、田島だから一日くらい勘違いしてるってのもありうるんじゃないの?」 「ま、らしくて良いんじゃない?」 これで納得してしまう俺らってのも、まあ。 大分馴染んだって、ことで。 ▲上に戻る
それは反則!! 「田島くん、明日、だね」 「? 明日?」 わくわくわくって。 きらきらきらって。 俺を見る三橋のが、楽しそうな。 ……明日、なんかあったっけ? てか今日だったはずなんだけどなー。 だーれも言ってくんなかった。 「た、じまくん?」 「誰も覚えてねえのかな」 「どう、して?」 「だって」 しゃがみこみそうになった俺の前。 慌てて三橋がしゃがみこんで、出してきたのは。 白い、紙。 「さっき、の」 「レシート?」 肉まん買ったときのレシート。 俺は捨てちゃった、それの。 「……11月、15、日?」 「うん。俺、田島君の誕生日、忘れないよ」 「三橋」 「忘れない、で良い、ですか?」 「もっちろん!」 がばーって抱きついたら二人でべちゃって潰れた。 冷たい道路だけど、抱きついた三橋はすっげぇあったかい。 「すげぇ、好きだ」 「俺も、すごい、すごい、好きだよ」 「俺はすっげぇすっげぇすっげぇ好きだ!」 「……ま、けない、よ!」 「俺も!」 二人で笑って、くしゃみして。 ぶるぶるって震えて。 そういやもう真っ暗で、結構寒くて。 だから肉まん食ったんだったって、思い出して。 とりあえず、立った。 ぎゅってしてる三橋はあったかくても、コンクリ、すっげー冷てーから。 ▲上に戻る
ばいばい。 「か、ぜひいちゃう、よ」 「そーだな」 でも、まだこーしてたい。 三橋と二人でいたい。 「風邪、引いたら、明日」 「あー、みんな覚えてっかなー」 「覚え、てる! あ」 「明日なんかやるつもりだったんだな? そっかー、じゃ今のなしだ」 「う、ん」 ぎゅーって回した腕。 俺の腕の中にだけの三橋。 離したくない。離れたくない。 「やっと追いつけるんだよな」 「う、ぇ?」 「やっと16だ。半年ってなっがいなー」 三橋よりも早く16になって、背もでかくて。 しょーじき、花井と巣山が羨ましい。 ずっけーと思う。 「色んな、ことが、いっぱい、あった、よ」 「たーっくさん、な!」 「うん」 ほっとんど同じ高さで、たーっくさんの、いろいろ。 それはそれで良いんだけど、もっともっとたくさんを。 ずっとずっと、そばで。 「じゃー、ばいばい、な」 「また、明日、ね」 「おう! また明日な!」 がばって、離れて。 ぶんぶん腕振って、だだだって、走り出す前に。 「好きだー!」 「お、俺も!」 ほくほくな気持ちで走った真っ黒な空に。 流れ星一つ、流れていった。 ▲上に戻る