Side of MOON −副会長の優雅な(?)一日−
「お早うございます」 「お早う」 校門近くで交わされる元気な声の中に聞き知った声が混ざっていた。 「トーヤさん、お早うございます」 「お早う」 漆黒の髪に、見知った人間以外には警戒心を浮かべる大きい目。生徒会の後輩の有栖川忍だった。 「今日は、アヤは?」 いつもならば二人で一緒に登校してくるはずの片割れが今日は何故かいない。 疑問に思って口に出せば。 「さ……さぁ? 何か用があるとかって言ってましたよ。じゃぁ、また後で」 大きな目を零れそうな位に見開いて慌てて走り去っていってしまった。 (何かあるな) 有栖川は隠し事などが出来ない。クールビューティーなどと一部の生徒の間で呼ばれているようだが、それは全くの誤解だ。 あいつは自分の心を許した奴には自分を偽ることが出来ない。 まぁ、可愛らしい後輩が変な輩に襲われる心配がその呼び名の所為で減っているからまぁいいのだが。 ではなく。 もう一人の後輩、土岐綾一郎の名前を出した途端に有栖川は慌てていた。 何か隠されているらしいが、生憎と今日は思い当たる節が一つも無い。 良くあることなので大して気にも留めず、俺は朝の出来事をそのまま忘れてしまったのだった。 「浅見君、ちょっといいかな」 二時間目の授業が終わったその直後の移動時間。見知らぬ生徒(学年章から察するに同学年)に声をかけられた。 「これ、もらってくれないか?」 差し出されたのは水色の包装紙でラッピングされた小さな包み。受け取る理由も義理も無いので断る。 「悪いがこれは受け取れない」 「……そうか、すまないな、呼び止めてしまって」 がっくりと肩を落として去ってゆく生徒。結局名前も分からなかった。 (何なんだ、今日は) さっきので、実は五回目だ。有栖川といいさっきのといい全く何なのだろうか。 「トーヤ、放課後生徒会棟に来てくれ」 同じクラスだというのに珍しく今日一日会話を交わしていなかった蛍がいきなり俺を呼び止めた。 「掃除当番も何もなかったよね? 待っているよ」 それだけ言うとさっさと教室から出て行ってしまった。 「…………本当に、今日は何なんだ」 「土岐、絶対トーヤさんは忘れてると思うんだけど」 「多分な。だからサプライズパーティーなんだろうが。……クリーム付いてる」 「え? どこに?」 「届かないだろう? 取ってやる。……ほら」 「っ…………土岐っ!」 「なぁ、お前のときは……」 「? 何?」 「いや、いいさ。それよりほら、手がお留守になってるぞ」 言われたとおりに放課後、生徒会棟に行くと……華々しかった。 「誕生日、おめでとう」 蛍の声と共にクラッカーが弾け、紙吹雪が舞い上がる。 「……ああ、そうか」 やっと納得がいった。断ってしまった生徒達には悪いことをしてしまったかもしれない。 「やっぱり忘れていたね。トーヤのことだから自分の誕生日なんて祝い事の対象外にしていると思っていたんだよ」 「……わ」 「悪い、と言うのはこの場合僕達に対して失礼なことだよ。違う言葉があるだろう?」 「……ありがとう」 「「「どういたしまして」」」 どうぞ、と勧められるままに部屋の中に入ると、中にはパーティ料理が大量に並んでいた。 「浅見、どうした?」 俺の後から入ってきた野崎先生が、呆然と立ち尽くしている俺の背を軽く叩く。 「ちょっと……嬉し過ぎて」 それ以上言葉にならず、かと言って歓喜の涙が零れるでもなく。 ただ、本当に嬉しかったのだ。 「どうだった?」 窓辺に寄りかかって蛍が尋ねる。月影に照らされた部屋は少し淋しい感じがした。 「どうもこうも。正直、びっくりした」 「だろうね。だからこそ嬉しさも倍増だったんじゃないかな?」 くすくす笑ってポケットを探ると、おいでおいでと手招きをされた。 近寄ると、手の上に小さな箱を乗せられる。 「渡すのが遅くなってしまったね。誕生日プレゼントだよ」 「これ……」 「サイズは合っていると思うけれど」 月の光を反射するシンプルで洗練されたデザインの輪を取り出し、俺の左手をそっと持ち上げる。 「普段はネックレスに通してかけていれば恥ずかしくないし、目立たないよ。けれど今だけは、嵌めていてもらえるかな」 ひんやりとした蛍の手の感触が心地良い。 「返事を、聞かせて?」 左手の薬指の付け根が熱を持ったかのように熱い。 俺は想いを込めて目を閉じた。 言葉になんて、本当に言葉なんて要らなかった。 「愛してる、透哉」 囁きと共に落ちてきた唇が俺の想いを全部受け止めてくれた。 |
後書きと言う名の言い訳 |
パソコンの空き容量が足りないとパソコンは不便なようです。 私にはちっともパソコンの気持ちは理解できませんが。 しかし年度始めからお誕生日パーティ。 行事が詰まりすぎてて自分の祝い事だとは思わないですよね。 20040310 再アップ20080207 |