ああ、本当に冗談にできたら良いのに。 不幸自慢 「お気に入りのカップが割れちゃったの」 「ああ、それで元気がなかったんだね、明日香ちゃん」 「え、元気なかった?」 「悲しそうに俺には見えたよ」 いるだけで日が差すような笑みを浮かべている彼女が今日は沈んでいて。 どうしたのかと問いかければ、淋しそうにそう口にした。 お気に入りのカップ、がどんなものかは分からないけれど。 とても多くを『大切』にする彼女のこと、きっと思い入れもあったに違いない。 「そっかー。ばれちゃうんだね九龍クンには」 「宝探し屋だからね」 「……九龍クンも落ち込んだりする?」 好奇心を半分覗かせて首を傾げるのに、同じようにして返せば。 「可愛くしたってごまかされないよ?」 じーっと俺を覗き込む双眸。 人の痛みをすぐに見出してしまう、優しくて強い心。 「残念。はぐらかすのは苦手だからなあ」 「ええ? 最近落ち込んだ?」 「うん。俺はまだまだ新米だからね。自分の情けなさに落ち込んでばっかりだよ」 「うっそだー! 九龍クンが落ち込んでるのなんて見たこと無いもん! ね、皆守クン」 「そうだな。派手に落ち込んでるのは大して落ち込んでないときだしな」 「……良く見てるね、二人とも」 苦笑にもごまかされてくれない好奇心丸出しの八千穂と。 関心が無い風を装ってその実視線は鋭い皆守。 さて、どこに逃げようか。 「それって、アタシたちが頼りないから?」 好奇心の裏側に人を思いやる心を貼りつけた彼女は、正直苦手だ。 「違うよ。俺が頼りないから」 「え?」 「ただでさえ危険なところについてきてもらってるのに俺が不安を表に出したら駄目でしょう?」 「でも」 「どんなに明日香ちゃんが大丈夫って言ってくれても、俺が自分で俺を駄目だって思うからね」 言葉と表情で訴える八千穂よりも更に苦手なのが目線だけで訴え続けている皆守。 君が俺の不幸の原因だよと口にしたら。 君は、どうする? 「俺よりも皆守が落ち込むときの方が面白いと思わない?」 「皆守クンが? うーん……あ、マミーズのカレーが売り切れてたとき!」 「確かに凄い落ち込みようかも。どう、皆守」 「あるわけないだろうが、そんなこと」 「「あったら?」」 君は、どうする?