まだ、離れることが怖い。 それでも僕らは 「あら? ダーリン、皆守は一緒じゃないの?」 「茂美ちゃん、俺も甲太郎も四六時中一緒にいるわけじゃないんだよ?」 「でもアタシが見かけたときはいつもそばにいたわ。もしかして、ケンカでもした?」 ケンカなんて、できるわけがない。 どちらも互いに本心など見せていないのだから。 「はっちゃん、一人なのかい?」 「鎌治。俺が一人なのはそんなに珍しいかな」 「あ、そういう意味じゃなくて」 「……うん、分かってる。ごめん、意地悪なことを言った」 「そんな……」 もう一度ごめんと謝って、逃げ出した。 いつでも対でいるわけではないし、そんなことになるはずもない。 「九龍君、なんだかお辛そうですわ」 「……そう、見える?」 「いえお顔には出ていませんけれど、でも」 「顔に出てないなら、リカちゃんくらい親しい人じゃないと気付かないかな」 「九龍君!」 「大丈夫だよ。どこも怪我してないし具合が悪いところもないから」 空気に出てしまうのは、相当綻びてしまっている証拠だ。 顔になど出そうものなら何を言われるか分かったものじゃない。 「教室でも保健室でも屋上でも寮でも無い場所をお望みかい?」 「……黒塚」 「鍵は持っているんだから好きに使うと良いよ」 「恩に着る」 「石たちも君に会いたがっていたからね」 逃げ込んだ先。 ここに、彼が現れることはまずない。 息を吐き出して、ずるずると床に崩れ落ちる。情けない。 背を任すことに慣れたら駄目だ。 あの優しさに甘えたら駄目だ。 あの匂いに安心したら駄目だ。 一緒にいることを当たり前だと思っては駄目だ。 『お前、最近やつれてないか?』 『無理はするなよ』 『九龍』 望んでは駄目だ。 彼は敵対する者。 前に立ち塞がる者。 共に歩くことは許されない者。 「甲、太郎」 我知らず震えてしまった声に反応するように震えた、H.A.N.T。 『九龍、どこにいる?』 俺は、お前の手を求めるわけには、いかない。