酷く冷たく甘い体温。 指先だけで触れて 遺跡の中で武器を振り回す割に細く薄い華奢な身体。 どこにあんなごつい銃をぶっ放す力があるのか、皆目見当も付かない。 低い背というかリーチの長さをしきりに気にしているが、かなり足は長い。 俺と比べるのが間違っているのであって、同じ背の高さならこいつの足は長い部類に属している。 長いといえば、睫毛も長い。 八千穂やらが羨ましがっていた、長くくるりとカーブしたそれは蒼い双眸を縁取っている。 象牙色の肌、赤い唇。 朱堂がしきりに悔しがっていた肌理細やかだという肌。 表情を消しているときは作り物めいた人形のような顔立ち。 「甲太郎、肩が」 「ああ、濡れてるな」 「……風邪を引くよ」 「そうだな……貸せ」 「え?」 「お前の高さに合わせてたら歩き辛くて敵わないんだよ」 柄を奪い取るために触れた指先は驚くほど冷たく。 そのまま上から包み込もうとすれば、するりと逃れた。 「鞄、貸して」 「別に良い」 先を行く八千穂と白岐からは明るい声が響く。 雨の音など構わず、重ねられる会話。 「九龍」 「どうかした?」 「……いや」 会話が続かなくなるのは、俺のせいだ。 いつか、その前に立たなければならない相手。 斃さなければならない相手だと知っていて。 手を伸ばすことも声をかけることも止められない。 「あったかくして風邪引かないようにしてね!」 「うん。二人も」 じゃあまた明日、と。 八千穂と白岐に振られていた手が、止まって。 「やっぱり濡れちゃったな。ごめん、甲太郎」 指先が、前髪を掠めて離れるのを。 「風邪……甲太郎?」 「……お前の手の方が冷えてるだろうが」 「俺は、大丈夫だよ。今から温まるし。このままで眠らないで、な?」 掴んだ手は、振り払われず。 柔らかく細められた蒼に。 拒まれていないと、思ってしまう、のに。 「甲太郎?」 「……いや、なんでもない。お前も風邪引かないように気をつけろよ」 「うん。それじゃ、また後で」 それ以上は、踏み出せない。