閉じ込めてしまいたい。 一番深い場所 遺跡の奥へと潜るたび、傷が増えていく。 手を伸ばして助ける機会が増えていく。 赤が、鮮烈な紅が目に焼きつくことが増えていく。 下がってと、無言の圧力をかけられることが増えていく。 「我が王、今日は、もうこれ以上奥はお疲れさんです」 「あ、疲れた? 少し休もうか」 「そうではなく! 皆守サンも」 視線に込められているのは黙っている俺への非難と助けを求めるそれだ。 アロマを深く吸い込み、吐き出してから要請に応える。 「今何時だか分かるか?」 「ええと……27時、って、うわ、ごめん」 「そういうことだ。だろう?」 「はい!」 「遅くまでつきあわせちゃってごめんね、二人とも」 下げられた頭に激しく首を横に振る男は。 引きずってでも九龍をここから連れ出そうという勢いだ。 まぁ、分からないでもない。 今日は三回ほど瀕死状態になった九龍にどれだけ肝を冷やしたことか。 ……冷やす資格など、ないのに。 「現在地点のマップ出すから、ちょっと待っててね」 「我が王?」 「九龍?」 「うん、ここからなら出てすぐいつものロープの場所だから。先に」 かっと視界が赤く染まった。 怒り、でだ。 「皆守サン!」 「先に、何だと?」 「我が王も! 落ち着きやがれですよ!」 思わず出してしまった足を軽々と避けて、ふらついた。 そのまま壁にもたれかかる。 ……この状態で、何を、言おうとした。 「先に帰っててくれて、大丈夫だから」 「てめぇ」 「後もう一つだけ調べたいことがあるんだ。だから、先に」 「そのザマで何を大層なことを言ってるんだ」 「調べるだけだ」 「混ぜるな危険です、我が王!」 「トト」 「いけません駄目です。無理は事故の母親って言います」 駄目だと繰り返す声に、長く静かなため息。 折れた証だ。 「分かった。うん、今日はもうこれで帰る」 「それが良いです。さあ、皆守サンも帰りましょう!」 「……ああ」 深く、深くアロマを吸い込んで波立った心を抑えつける。 俺では止められなかった。 そのことに不快感を感じる資格も、俺には無い。 それなのに。 「甲太郎?」 「荷物は黙って背負われてろ」 「……俺は」 「今の状態でそうじゃないと言い切れるのか」 背負うために触れた身体は冷たく。 背負う直前に覗き込んだ顔は蒼白だった。 そうまでしてこんな遺跡に何の価値がある。 命を削るほどの価値が、どこにある。 「それでも、俺は」 秘宝を手に入れなきゃならないんだと。 呟くこいつの。 両手両足を今すぐ縛って。 布で目を覆って、猿轡をかませて。 閉じ込めてしまいたいと、思った。 そんなことは、誰にもできないのに。