こうなることは予測がついていた。 過去完了形 腕の中で誰かの身体が冷えていく夢を見る。 毎日、毎日、連日連夜。 倒れるのは自分じゃなくて、背に庇っていたはずの大切な友人。 目の前に立ちはだかるあいつの攻撃を避けられなかった俺を。 守ろうとして、皆倒れる。 俺が戦わなければならない相手と、戦えないから。 戦える、戦わなきゃならない、それは分かっているのに。 夢の中であいつと対峙した瞬間に、俺の足は地面に張り付いて動かなくなる。 それを、庇って。 やっちーも鎌治もリカちゃんも黒塚も茂美ちゃんも奈々子さんも。 タイゾーちゃんも真里野も七瀬もヒナ先生も砲介もトトも。 白岐も咲重ちゃんも。 皆、俺の腕の中で冷たくなっていく。 現実になっては、いけない、夢。 「君が保健室登校とは珍しい……などと冗談で済まされる顔色ではないな」 「そんなに酷いですか?」 「元が白いから分かりにくいだけで随分と気が弱っている。君にしては本当に珍しいことだ」 夜遊びだけが原因では無いな、と断言されれば否定も何もない。 たとえ睡眠時間が短くても、しっかりと眠れていればこんな状態にはならない。 心身ともに健康であるべし、というか身体が資本の《宝探し屋》にとっては当たり前。 それがこの体たらく。理由がはっきりと分かっているだけに、余計性質が悪い。 「嫌な夢ばかり、見るんです」 「夢、か。それではきちんとした睡眠を取れていないということだな」 「はい」 「いつからだ?」 「……思い出せません」 ただはっきりと分かるのは、腕の中で冷たくなっていく顔が確実に増えているということ。 戦うべき相手の顔は、変わらないということ。 「困ったな。君の保護者は知っているのかい?」 「……甲太郎は俺の保護者じゃないですよ」 「だがいつも君を気にかけている。違うか?」 首を横に振ることは、できなかった。 ルイ先生の言葉は的確に俺の弱点を突く。 「君と皆守の仲が少し拗れているようだと言われてね」 「誰に、ですか?」 「守秘義務とでも言っておこうか。まあ、一人や二人ではないことは確かだ」 「……それは、いつから?」 「気付けないのか、それとも意識的に気付かないようにしているのかは別として。 ……新しい《転校生》が来た辺りから、だな」 『キミとボクと何が違うと言うんだい、葉佩』 耳に付いて離れない、声。 否定ができなかった、俺。 「関係の修復は望めないか?」 「分かりません。俺には、何もできません」 そう、俺には何もできない。 誰も救えない。 一番救いたいその人の心の内側に立ち入ることは、できない。 「……少し、眠ると良い」 「でも」 「君は少し労わることを覚えたほうが良い。誰か、ではなく自分を、だ」 「……はい」 出された茶に睡眠薬が仕込まれていたことにも気付けなかったほど、消耗していた。 「君の心は、誰が解放するんだろうな」 強い光を放つものほど、その身の内に巣食う闇は深く広く冷たい。 そのことに、誰かが気付いてやれば良いのだが。 「君は、誰に救われるんだろうな、葉佩」 頬を伝う涙の後を拭うものが在れば良いと、願った。