それ以外に、何を交わせば良かったの? 吐息交換 「アンタが、副会長って」 「お前は俺の補佐だったってことだな。……お前はあまり驚かないんだな」 だって、知っていたから。 立ち塞がる敵であること。 ずっと俺を監視していたこと。 ここに来る前に、こうやって合間見える前に、全て知っていたから。 驚くことは、ない。 ただ、この覚悟を決めるのに、とても時間がかかった。 それ、だけ。 「俺を誰だと思ってるの?」 「墓荒らし、か」 「……甲太郎がそう思っているなら、それが答えだ」 解放者なんて、そんな称号に溺れる偽善者にはなれなかった。 でも、少なくとも、俺は。 ……友達で、いたかった。 葉佩九龍と皆守甲太郎との間には敵対関係ではなくて友人関係を築きたかった。 そう、願っていた。 「俺は、墓守の役目を果たす。お前は?」 解き放つことは、できるだろうか。 お前を。 「仕事をするよ」 「そうか。なら、容赦はしない」 「……俺も、手加減はしない。凍也」 「はい」 「そこで、見てて」 「……嫌です」 「俺は、酷いことをするかもしれないよ? お前の先輩に」 「俺は九龍さんのバディです。それは譲りません」 貴方が好きですと、泣いてくれた。 俺の前に立ち塞がる甲太郎との間に、立って。 「俺は諦めません」 「……分かった」 涙で視界を歪ませるなんて、しやしないのだけれど。 痛む胸は、ときおり呼吸を途切れさせるほどに。 視線が合うだけで、泣きたくなった。 分かれなければならない相手。 戦うことが定められている相手。 魅かれては、ならなかった。 友情で終われれば良かったのに。 「俺も、諦めないことにする」 願うことだけは。 「俺の、望みを」 「白岐、大丈夫?」 「……ええ、私は。でも、貴方は」 「俺も大丈夫だよ。白岐は特に消耗してたから、気になったんだ」 「ありがとう。私は本当に大丈夫よ」 「良かった」 遺跡は崩壊した。 荒波吐神神、長髄彦を解放したことによって天香遺跡は役目を終えた。 秘宝を入手しなければならなかったのだけれど、発見できず終い。 見習いハンターの称号はまだ取り外しができないらしい。 「あの、他の人には?」 「他の人? 白岐以上に心配な人なんていないよ」 「……九龍」 「いないんだ。本当に。ああそうだ、後でやっちーに顔見せてあげて」 「八千穂さんに?」 「うん。心配してたから」 白岐が言外に匂わせていることは分からない振りを続けて。 俺よりも彼女に意味のあることを。 彼女が思考をそちらに向けられるような話題を。 「それじゃあ、おやすみ」 「ええ、おやすみなさい」 それとさようなら、を。 声にしないまま、伝えて。 半分空にした部屋に、戻れば。 「九龍」 扉に寄りかかるようにして、甲太郎が立っていた。 もう決別してしまった相手。 「まだ起きてたの。寝れば?」 「話があるんだ」 「俺にはないよ」 実際、やらなければならないことが山積みだ。 報告書を出さなければならないし、一度本部に顔を出さなくちゃならない。 この部屋を片付けなければならないし、俺という存在をこの学園から消さなければならない。 「お願いだ、九龍。俺の話を」 「自ら死を選んだモノがその口で何を語る、と?」 「っ」 「俺にはお前と話をする必要がどこにも無いよ、甲太郎」 「すまなかった」 「謝られてもどうしようもない。そこを退いて。俺も眠い」 「九龍!」 掴んできた手を、振り払うことは容易い。 俺にも、甲太郎にも造作も無いことだった。 それを今までしなかったのは、拒まなかったのは。 「仮定の、話を一つだけ」 顔を上げないまま、問いを一つ。 「俺とお前の立場が逆だったら、お前はどうした?」 「何を言ってる?」 「答えを見つけられたら、そのときにまた会おう」 おやすみ、良い夢を。 そしてさようなら。 「九龍! おい、開けろ!!」 もっと甘い気持ちで、キスくらいしたかった。