いつもは黙って従うが。 歩き出した背中を 閃光を放つ厄介な相手がいることは知っていたし。 遭遇したら他のどれよりもそれを先に倒していることも知っていた。 「甲! 後ろ向け!!」 ずらずらと出てきたそいつらを片っ端から大剣でいつもどおりに薙ぎ払い。 最後の一体を仕留め終えたと思った瞬間。 滅多に怒鳴りなどしない九龍が。 口よりも先に足をこっちに突き出してきて。 反射的に避けたついでに背を向けた瞬間。 目を灼く、光が。 「……おい」 光の洪水が収まるのを待って、振り返れば。 両腕を顔の前で交差させた小柄な身体がばたりと。 「おい、九龍」 俺の腕の中に倒れこんできた。 体勢を崩されて、そのまま座り込む。 「甲太郎、目は?」 「誰かさんのお蔭で至ってまともだ」 「それは良かった」 腕を外してゴーグルを外し。 右手を握っては広げ、握っては広げを繰り返す九龍。 「お前、まさか」 「いえいえご心配など滅相も無い。ちょっと右手の具合を確かめてみた……っておい」 右手首を掴んで手のひらとその反対とを見比べたところで何の異常も無い。 握りこんだ手首にも何ら異常は無い。 だとすれば。 「これは何本に見える?」 顔の前に手のひらを突き出さずに、そう、問う。 「何を」 「良いから答えろ。お前の前には何本指がある?」 流そうとする九龍に、再度、聞く。 息が詰まるような沈黙。 「……二本、かな」 「馬鹿野郎。お前、今見えてないな」 がさごそとアサルトベストを探るが、目当てのものは出てこない。 出てくるのは弾薬、ミネラル水、ガムに爆弾、食塩水にワイヤーにティッシュ。 回復アイテムを常備しろといっているのに、これだ。 あとでアイテムの重要性を語ってやったほうが良いだろうか。 「ちょ、何してるんだよ」 「大人しくしてろ」 大した効果はもたらさないだろうが、ミネラル水の口を開けてティッシュを濡らす。 べたりと閉ざされた瞼に貼り付ければ、まぁ、多少は違うだろう。 「甲太郎?」 「状態異常を回復するアイテムはどうした」 「ちょっと、入らなかった」 「まだ空きがあったように見えたぞ」 あとで夜通し語ってやる方向に決定。 「甲太郎」 「何だよ」 「心臓の音が聞こえる」 「そりゃ俺は生きてるからな」 「そうじゃなくて……安心する」 ふわりと表情が崩れ、身体の力もくたりと抜ける。 「三十秒ちょうだい」 「は?」 急に重みを増したかと思えば。 規則正しく上下する肩。 「……俺には五秒ぐらい寄越せ」 屈みこんで薄く開かれたそれにそっと唇を重ねた。 「視界良好! さ、帰ろうか甲太郎」 「そりゃ結構だ」 何事も無かったかのように。 微塵の迷いも見せずに、俺の先を行く背中を。 「帰ったらお前の無謀さ加減とアイテムの重要性について語らせてもらうからな」 「ええ?」 すぐに庇える位置で追って歩いた。 end