幸せそうだから。 好きじゃないよ 日本にいるとどこの国の料理も食べることができるけれど。 けれど、それは日本風のそれであって俺が知っている食べ物ではない。 日本人が好む味付け、と言うのだろうか。 パンの水分は多いし。 ヌードルの素材自体が全然違うし。 そもそも水からして質が違う。 別にどっちが良いとか悪いとかではなくて。 単純に好みの問題なのだろうけれども。 「どれにする?」 「…………いや、俺は」 カレーライスにカレーうどん、カレーラーメンにエトセトラエトセトラ。 共に食事を取るときは必ず何らかのカレーを食しているこいつには悪いけれども。 カレー星人の異名を取るこいつには非常に悪いのだけれども。 カレーも、全然違う。 インドで食べたのは、こんなのじゃなかった。 「お、新作のスープカレーだとさ。試してみるかな」 はっきり言って俺は日本のカレーが好きではない。 どろどろしてるし、何か根本的に違う。 「親子丼」 「は?」 「親子丼が良い。奈々子さん、俺親子丼」 「はーい。皆守君はいつものですか?」 「……ああ」 「では注文を確認します。カレーライスと親子丼。以上でよろしいですね?」 「あ、あと食後にアイスコーヒーもお願いします」 「承知しましたー。少々お待ちください」 この親子丼という食べ物は良い。 卵がふわふわで鶏肉がふるふる。 日本の米も気に入った。 「九龍」 「何だよ」 「親子丼とはどういう意味だ」 「食べたかったんだから仕方がないだろ。そもそも日本のカレーは俺の口には合わないんだ」 きっぱりと言い放てば、ぐ、と言葉に詰まる。 「やっぱりカレーはインドなのか?」 「俺はインドのが好きだよ」 「……本場では食ったことねぇからな」 ふむ、と今度は納得したように呟いてインドに思いを馳せているのか遠い目。 ……そうか。 「行く? インド」 「はぁ?」 「卒業旅行の行き先、インドにする? 本場を食べつくす?」 ガンガーの流れ。 スパイスの香り。 牛に人に寺。 チャイも良いな。紅茶も美味い。 「世界中どこでも、その場でしか食べられないもの、見られないもの、全部見せてあげたいな」 運ばれてきた親子丼に両手を合わせて頭を下げて。 嬉々としてカレーライスにスプーンを伸ばす甲太郎に告げた。 end