不落の、半身。 太陽落下 「如月さんから連絡を受けたよ」 「……相変わらず如月は俺のお母さんだなあ」 「龍麻」 「あんまり、お前をここに近寄らせたくなかったんだよ」 龍麻が日本に戻ってきていることを知ったのも間接的に。 倒れたことを知ったのも間接的に。 ……酷く心が揺れた。 如月さんを責めるべきではないと分かっていても。 目の前で顔面蒼白の半身を見た瞬間に全身の血液が沸騰した。 「ここの地脈は確かにおかしいけれど、それなら僕よりも」 「如月にも会えたから、どうにかなると思ったんだよ」 「……君って人は」 「それにここ、M+M機関の人間が二人もいてさ。良くないだろ、お前に」 いつまでも入り口で立ち尽くしているわけにもいかないので、一歩部屋に踏み込む。 部屋中に満たされた陽の気。 自らの身の内に巣食う黄龍を押さえつける代わりに、他のものを押さえず。 気の流れが狂ってしまっている。 「如月さんよりも僕の方が適任だとは思わなかったのかい?」 「だから俺はお前を」 「僕に会いたくなかったのかい?」 従兄弟が、ここにいるのだと聞いた。 その従兄弟の前では不調は露にしないのだとも。 従兄弟とその友人が、龍麻のこの部屋の両隣の住人が部屋を離れて。 如月さんだけが、仕えるべき主の異変に気付き。 『龍麻には伏せるように言われていたのだけれど』 そう、僕に知らせを寄越した。 半身を遠ざけるほどの、異常な事態であると。 判断したのは、僕に。 「こんな俺を見たら、お前、怒るじゃないか」 「当たり前のことを」 「怒って、悲しむだろ。だから嫌だったんだよ」 ごめん、と伸ばされた指先は酷く冷えて。 これだけで絆されてしまう僕は駄目なのかもしれないけれど。 「いつだって君は綺麗だよ、龍麻」 「……そりゃ、どうも」 この身に熱を宿す役目だけは、どうやら分を弁えてくれたらしい如月さんに感謝をしつつ。 指先だけに留まらない冷たさを塗り替えるために、黒いコートを脱ぎ捨てた。 end