なぜこんなことになったのか。 僕らは戦う 「皆守甲太郎、往々にしてデリカシーが欠如、と」 「おい」 毎回毎回僕が彼とまともに言葉を交わす場といったら、遺跡だ。 「慌てなくても今向こう側で罠を解除している音が聞こえるよ」 「……そうかよ」 石の壁の向こう側。 かちかちかちりという細かい作業音と。 ず、ずずず、と重たい石が動く音が聞こえる。 まぁ、石に対して愛情を抱いていない彼には聞こえないかもしれないけれど。 「どうせならあいつと一緒の方が良かった」 「な」 「だがしかし、あいつと俺が一緒にいたらここからどうやって脱出するべきか」 「お」 「こいつとあいつが閉じ込められなかったことが唯一の救いか」 「っ」 「何だってこんなむさくるしい」 「……おい?」 「大丈夫。君とここで一緒に酸欠になる愚挙は犯さないよ」 言外にアロマをつけるなと言ってみる。 ぐ、だかう、だか呟いてポケットに見慣れた道具をしまいこんだ。 壁であればいつも躊躇わずに爆薬で吹き飛ばす彼がそれをしないのは僕たちが中にいるからであって。 恐らく閉じ込められたのが彼であれば迷わずに中から爆発を試みることだろう。 時間がかかるのは複雑な仕掛けが施してあるからだろうか。 一向に音が止む気配は無いが、思ったよりもここは広い。 そんなに焦る必要は無いよ、と声をかけてあげたいが、物理的に不可能だ。 「閉じ込められたのが僕一人だったら、彼はどうしてたかな」 「どうするも無いだろ。今と同じだ」 「じゃあ、君一人だったら?」 僕は肉弾戦は得意じゃない。 「何、を」 「君は彼に何かを隠していないかい?」 客観的に見ていれば、その行動が僅かな違和感を伴わせるものであることは誰にでも分かるだろうと思う。 彼に盲目的な者でなければ。 「……黒塚、何が言いたい」 「何を言おうとしていると思う?」 僕は優しくない。 誰かの酷く脆い部分をつついて曝け出してやることも、別に躊躇わない。 「気にかけている相手が傷付くのを黙って見過ごせるほど、僕は心が広くは無いんだ」 かちり。 ががががが。 「甲太郎、黒塚、大丈夫か?」 「驚いたくらいで特に何も無いよ。ねえ、皆守君」 「ああ」 「そっか。良かった」 心底安堵したと全身で表す人ににこりと笑う。 「ありがとう、博士」 「そんなことないって。元は俺のミスだし」 「まったくだ」 「本当にごめんって」 しょぼんと凹みかけたその顔の。 白い頬に煤汚れを見つけて手を伸ばす。 「博士こそ怪我は無いのかな?」 「あ、俺は平気」 「じゃあこれは汚れただけだね。良かった」 手を伸ばしてふき取ろうとすれば、横から伸びてくる手に遮られた。 「これでも使っておけ」 「うん。分かった」 ちらりと見れば、不機嫌極まりない表情。 そんな顔をするのなら。 優しい言葉の一つでもかけてあげれば、満たされるのに。 「皆守君」 「何だよ」 「心理戦は、得意なんだ」 彼が顔の汚れと格闘している間に。 僕たちの戦いの火蓋は切られた。 end