酷く無防備なのは演技なのか、それとも本性なのか。 計画的犯行 「本当に君は呆れた男だな」 「……まぁ、良く言われるね」 「褒め言葉だと思っているのならば全力で否定してやるぞ?」 「滅相も無い。……や、助かった」 以前に崩したという壁の奥を再調査しようとした瞬間、見事なまでに足元が崩れ去った。 狭い場所に門外漢がいたら妨げになるだろうと思い、少し離れていたのが功を奏し。 決して大柄ではない身体を勢い良く引き寄せて、事なきを得た。 「やっぱりガス爆弾をぶつけたのが良くなかったかな」 「強度を調べてから実行することを強く勧めるな」 「うん。今度は黒塚と一緒にくることにするよ」 「……九龍」 俺が言っているのはそういう意味ではない、と言いかけて。 「大和?」 「君は本当に分かっているのか?」 「何を」 「この状況で腕を解かずにいると何が起こるかを、だ」 中性的な作りの顔に自分の顔を寄せる。 目をゆっくりと瞬かせるだけで無防備に俺を見上げるだけ。 けれど。 「何も起きない、あるいは拳骨で殴られる、ぐらいかな」 笑みを浮かべて、両目を閉じる。 睫毛の一本足りとて震えもしない。 やれやれ。 ガードが固いのかよほど信頼されているのか。 「両方外れだ、九龍」 言って、額に口付けを落とす。 「大和」 「今のはおやすみのキスだぞ」 「つまり」 「今日の探索はこれで終了、だ。か弱い俺の寿命を誰かさんが縮めてくれたからな」 不満げな表情は遊び道具を取り上げられた子供そのもの。 むぅと突き出された唇を指でつまんでやる。 「むーっ!」 「反論は聞かないぞ。心配性なお母さんに怒られるのはごめんだからな」 指を離して髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜれば、素直に頷き返す。 「あいつ面倒だのどうだの言ってるけど、連れて行かないと不機嫌になるんだよ」 「ああ、甲太郎らしいな」 罠を解除し終え、敵も倒し終えた安全領域を他愛も無い世間話をしながら地上に向かって歩く。 上手く利用させてもらおうと思っていた相手とこんな風に会話ができるとは思っていなかった。 「でさ、門限まであるんだよ」 「本気か?」 「二時には寮の中に入ってないともう煩いったらない」 時間まで残り三分。 これはもしかしたら面白いものが拝めるかもしれない。 「入ってないと、具体的にはどうなるんだ?」 「具体的?」 ぱたりとその歩みを寮の玄関から数歩離れたところで止め。 限りなく正確な腕時計に視線を落とし、俺を見上げる。 「この状況で寮の中に入らないとどうなると思う?」 楽しそうに笑いながら言う九龍に。 俺の方が良いように利用されたと気付く。 足音こそしないものの恐るべき速度でこっちに向かってくる気配。 あの甲太郎が走っているに違いない。 それを分かっていて。 くすくすと楽しそうに笑顔を浮かべるのだ、この男は。 「九龍、お前今何時だと思っていやがる」 「二時ジャスト。ただいま、甲太郎」 何の迷いもなく九龍を抱き寄せる甲太郎。 叱責すら笑顔で受け止める九龍。 「帰るぞ。……なんだ、まだいたのか大和」 「お言葉だな、甲太郎」 「そうそうお前がついてこないっていうから大和と一緒に潜ったのに」 「今日は熱い抱擁を交わしたな、九龍」 「……何だと?」 嫉妬を滲ませた甲太郎の言葉に九龍は更に笑みを深くする。 「キスもされたしね」 「九龍!」 もはや俺など眼中に無いといった感じで九龍を抱えて甲太郎は寮の中に消えていく。 やれやれ。 出し抜こうとした結果見せ付けられてしまった。 end