間抜け面晒してるのが、悪い。 痕跡のないキス 今日も今日とて屋上で授業をサボるのが俺の日常だ。 風が秋から冬のそれになる頃にはしっかり毛布も確保した。 熟睡するのもうららかな陽気のときのみにしている。 よって風邪をひく心配はあまり無い。 ぽかぽかと昼寝をするには最高の陽気。 眠気だって深い睡眠まで誘うのにあと一息。 なのに。 「……ん」 俺が欠伸をした振動が気になったのか、小さく身じろぎをする。 起こしちまったか、としばらく息を潜めれば。 甘えるように肩口に擦り寄って、眠る。 こいつのせいで、俺は眠れない。 認めるのも馬鹿らしいほど、心臓が派手に鼓動を打つ。 自分は男だ。そしてこいつも。 どんなに中性的だろうとも、小柄だろうとも、華奢だろうとも。 瞼を縁取る睫毛がそこいらの女より長かろうとも、何も塗っていない唇が赤かろうとも。 俺の名前を呼ぶ声が他の誰より心を揺すぶるものであろうとも。 こいつは、男なのだ。 だから俺がこいつに対して抱えている感情は資本主義のあり方からすれば間違っている以外の何物でもない。 何度深く交わろうとも、決して何も生み出しはしない身体を。 欲しがるなんてのは、馬鹿でしかない。 …………馬鹿は、俺か。 ただの監視者と被監視者で終わらせなければならなかったはずなのに。 心に深く入り込まれて入り込んで。 「……さ、む」 きゅっと俺の腕を掴んで擦り寄ってくるこの温もりを。 誰にも渡したくないと思うほどに。 毛布を引き上げて肩まで包み込んでやれば、満足そうに目を細める。 こんなにも、近くにいるのに。 「もう少し、警戒しろよ」 寝込みを襲うなんて真似を許させないでくれ。 end