そういえばそんなに必要じゃなかった。 温もり 五葉からセーターを貰った。 温かい、というか寒すぎる日本の冬にはもってこいの防寒具の一種。 両親共にロゼッタ所属で基本的にアレクサンドリアで過ごすことが多かった俺には縁遠い衣類でもある。 そして。 「やっちー、それ、何?」 「え? あ、もしかして九チャン耳あてしらない?」 「耳あて?」 もこもこでふわふわとした何かで耳の辺りを覆っているそれは耳あてというらしい。 ついでに首には同じ色のマフラー。 でもって手袋。 完全装備だ。 「うん。これしてると耳が冷たくならなくて温かいんだよ」 「そうなんだ。可愛いね」 「ありがとっ」 そういえばさっちゃんはコートを着てたし、良く考えれば阿門はいつもマントだ。 最近は大和だって制服の上着を着ているし、リカちゃんもふわもこ度が増してる。 日本の冬は年内より年明け早々の方が寒いし、2月になると雪が降ることも多々ある、とは知っていたけれど。 まさかこれほど皆対策を講じているとは。 「そういえば、九龍は薄着なのね」 「あんまり厚着ってできないんだよね」 「もこもこしていると動きにくそうではあるわね」 でも寒さで風邪を引いたら動くことも出来ないわよ、と。 心配そうに言う白岐も少し厚手の上着とマフラー。 そういえば授業中はひざ掛けもしていた気がする。 「亀急便で衣類も取り扱ってたかな」 「馬鹿か。あったとしても防寒具じゃないだろうが」 「そっか。うーん、あった方が良いかな」 「あるに越したことは無いだろうな。大体お前はいつだって薄着過ぎるんだ」 説教が始まる前に甲太郎の分の鞄も掴む。 「寒い。から早く帰ろう」 「……まったく」 呆れたように俺の顔を見て、俺の鞄まで自分の手元に治めてしまう甲太郎の。 その手に手袋は無く。 首元にもマフラーは無く。 さっきの可愛いぽわぽわは勿論無い。 上着は着ているけれども、そんなに温かそうじゃない。 「甲太郎は寒くないのか?」 「そりゃ寒いだろ。冬だしな」 言ってる顔はちっとも寒そうじゃない。 そういえば足元はブーツだった。外体育が無い日は。 「もしかしてあの温かい魔法の袋常備?」 「腰に貼っておくと温かい……ってそりゃ神鳳の奴だろうが」 「え? 神鳳カイロラブ? 知らなかった」 寒い寒い、と思って両手を吐息で温める。 見上げる空は鉛色。 ……から白いものがふわふわりと舞い降りてきた。 「甲太郎、雪だ」 「冷えると思ったら、道理でな」 「日本人はコタツで蜜柑なんだろ? 誰の部屋にあるかな」 「阿門の屋敷には囲炉裏もあった気がするが」 「イロリ? 何だそれ」 降ってきた雪は指先で溶ける。 見る見る間に冷えて赤くなっていく指先。 「甲太郎?」 「炬燵で蜜柑よりもメジャーだな」 ぐい、と引っ張られたと思ったら。 俺の手を掴んだまま甲太郎がポケットに手を突っ込んだ。 「ったく、冷やしやがって」 「雪も珍しくてさ」 「見てるだけで十分だろうが」 さっさと帰るぞ、と。 向かう方向はいつもと違う。 「どこに帰るんだよ」 「炬燵で蜜柑もしたいんだろ」 「お前たちが俺の家で寛いでいる理由はあえて問わないが」 「何だよ」 「その座り方はどうにかならんのか」 「普通だろ。お前も双樹とすれば良いだろうが」 「……断る」 end