語りかければ、美しい花を咲かす、花のように。 例えば花のように 「話しかけてあげるとさー、長持ちするんだね」 「ええ」 「可愛いねって毎日言ってるとさ、毎日綺麗なままなんだね」 「ええ」 「……大好きだよっていつも言ってたらさ、枯れないでいてくれるかな」 夕方、九龍が一人でここを訪れるのは。 話し相手を探すためではなくて、話を聞いてもらえる誰かを探すため。 「花って良いね。俺の気持ち全部受け止めてくれるの」 「そうね」 「嫌いって、叫んじゃったらさ。ちょっとしおれちゃったんだ」 「そう」 「かわいそうなことしちゃったな。本気で言ったんじゃないのに」 紅茶を魔法瓶に入れて。 お茶菓子を持って。 ただずっと、話す九龍の声を。 聞いて、相槌を打つ。 「俺なんかの言葉でさ、一喜一憂どころじゃなくて、咲き方まで変えちゃうんだよ」 「ええ」 「……どうして」 黙り込んでしまった九龍に先を促すことはしないで。 空になってしまったカップに温かいお茶を注ぐだけ。 ふわりと漂う良い香りに。 口を付けてまた語り始めてくれるまで、私達を囲む花を眺める。 「どうして、だと思う?」 尋ねられたときにだけ、私は私の言葉を伝える。 「好きだからじゃないかしら」 「好き?」 「ええ。好きだから、貴方の言葉でもっと綺麗になりたいと思うのよ」 「そう、かな」 「好きだから、貴方の言葉に傷付くのね」 花も人と同じ。 人も花と同じ。 「きっと、しおれて貴方をがっかりさせたことを後悔しているわ」 彼、が。 近付いてくる気配がする。 ねぇ、貴方はとても大切にされているわ。 「大丈夫よ、九龍」 「……うん」 ここに来たときよりも。 ほんの少しだけ笑顔を浮かべて。 「……おい」 声が聞こえた瞬間に、本当に。 花が開くみたいな、笑顔になる。 「お茶、美味しかったわ。ごちそうさま」 「白岐、あの、その」 「また明日、学校で」 「うん」 その笑顔を、見せて欲しいから。 私はいつだって温室のティータイムに付き合う。 end