焦がれ月
 市村はその日、生まれて初めてそれを見た。
 赤い赤い色の月。
 「月って、赤い時も、あるんですね」
 「血でも被ったのかもしれないな」
 知らずの内に零れていた呟きに、よもや返答があるとは思わず慌てて振り返ると。
 「何をそんなに惚けた顔をしている?」
 見慣れた主の顔があった。
 剣を握るとき以外でも厳しい、と隊士達に陰で囁かれるその顔は、今はとても穏やかで。
 けれどそれがつかの間でしかないことを市村は知っていて。
 出来ればいつもそんな顔をしていて欲しい、と思ってしまうのだけれどもそんなことは言えるはずも無くて。
 せめて、今この一時だけでも優しい時が流れてくれればと願う。
 「いえ、月が血を被る、と言うのは私はあまり好きになれないな、と思いまして」
 きっと、「あんなに大きなものを赤く染めるには余程の血液が必要なのでしょうね」などと言えば「俺達が殺した分では足りないか?」と自分を嘲る様な表情で笑いながら返されるだろうから。
 見ている方が痛いような顔をするのだろうから。
 俯きながら答えた市村の、そんな思いを感じ取ったのか。
 土方は縁側に座り込んで苦笑した。
 「じゃあ何故月が赤く染まると思う?」
 無理に答えを引き出させようとはしない言い方で土方は市村に問いかけた。
 俯かせていた顔を上げ、一瞬遠くを見てから市村は口を開いた。
 「誰かに恋焦がれているからではないでしょうか」
 「焦がれる?」
 土方はその言葉の意味を知らないわけではない。が、どうして市村がその言葉を選んだのかが気になって先を続けさせた。
 市村は澄んだ目で月を見遣り、続けた。
 「はい。私は学者ではないのでどうして赤くなるのか、本当の理由は知りません。けれど、月が遠い誰かを想って……焦がれているのだと思うと不吉ではなくて、寧ろ可愛らしいじゃありませんか」
 「…………こりゃ一本取られたな」
 「土方先生から一本取れるだなんて、光栄ですね」
 心から嬉しそうな笑みを浮かべ、市村がぺこりと頭を下げた。
 「焦がれ月か……。確かにそう考えりゃ可愛いものかもしれないな」
 悪くない、と思いながら土方は月に目を遣った。
 恋しい者を想って頬を染める月を。




後書きと言う名の言い訳
とりあえず本当に言い訳。
一話で「屯所から云々」の件がありますが、あれは史実とかから考えるとかなりおかしな表現です。
まず、時間が合ってないんですよね。
いつ、とは設定していないのですが、史実よりも若干早めに市村に入隊をさせてしまった私。
PEACE MAKERの黒乃先生と同じことをしています。
何故なら「市村が沖田や近藤、その他諸々の人々と絡めないから」です。
でもまぁ歴史パラレルだと思って読んで下さい。
あんまり細かいことを気にしないで。

そういえばこれ、友人達には「甘い」と言われました。……甘いのか?
私的には「ほのぼの」を目指したはずなんですけど。

赤い月って、「スモモ」やん! とか思ったのがこれ書いたきっかけなんですけど、スモモ、知ってます?
駄菓子で、プラスチックパックに二個入ってる奴なんですが。勿論僕は食さないのですが。
真っ赤な月見て思い出したんですよ、スモモ。
甘酸っぱいから、恋っぽい? とか思ってたらこんな話になりました。

こんなんですがちょぼちょぼ(大体火曜1限なんですけど。執筆時間は)書いていきたいと思います。
それでは、また。

20021010 
再アップ20080207