衣替え‐前編‐
 平生であれば土方の傍らに控えているはずの市村が、今日は珍しく暇を持て余しているようだった。
 土方の私室の入り口の戸の所に控えているのである。
 「市村君、お暇なんですか?」
 是、という答えが返ってくることを期待して沖田は市村に声をかけた。
 「はい。今日は豊玉先生の日なんです」
 「そうですか。じゃぁ何で君はここにいるんです? 『本日立入禁止』とでも張り紙をしておけば良いのに」
 「土方先生が急にお茶を飲みたくなったら困るでしょう?」
 「それは……そうかもしれませんが」
 真面目な子だなぁと思いつつ相槌を返し、沖田はさて困ったと腕組みをした。
 ちょっとした思い付きを実行してみようと思っていたのだが、この分では誘い出すことすら難しそうだ。
 「おや、お二人ともお暇ですか? 珍しいですね」
 二人して陽に当たっていると監察方の山崎が声をかけてきた。
 「山崎先生もお暇なんですか? 珍しいですね」
 常に仕事をしている感のある山崎が、日の高いうちから屯所内にいることがまず珍しい。
 そう思った市村が素直に口に出すと山崎は頭をかきながらこの男にしては珍しく口の中でもぞもぞと答えた。
 「いえ、暇、という訳ではないのですが……」
 「どうかなさったんですか?」
 市村が尋ねると山崎は少し笑って(沖田はこの時初めて山崎の笑みというものを目にした)こう答えた。
 「珍しく休みが貰えたものですから衣装の整理をしようと思ったんですが……。いや、予想していた以上に数が多くありましてね」
 「お手伝いしましょう!! ね、市村君もどうですか? 今日は手が空いているんですよね?」
 沖田は積極的に市村に働きかけた。今日一日こんなこと頃でのんびりと日向ぼっこをするよりも、数々の変装をする機会がある山崎の衣装の整理を手伝った方が楽しいに違いないし、第一立派な人助けになる、と市村に熱く語りかける。
 「お願いできますか?」
 山崎も申し訳なさそうに市村に頼む。
 ……この二人の頼みを断ることははっきり言って市村の立場では不可能だ。
 市村は静かなままの室内と二人とを見比べ、頷いた。
 「人数が多ければその分早く終わるでしょうし、こんな私で宜しいのなら微力ですがご助力させていただきます」



 偶然の様に思われた沖田と山崎の登場が必然であったと市村が気付いたのは半刻ほど後のことであった。




後書きと言う名の言い訳
はい、前編終了で御座います。この話、実は三つ分に分かれているのです。……壬生狼では初めてですよね、こんなに長いのは。
とりあえず前回(冬色参照)で永倉さんと原田さんが出てきたので今度は山崎さんを出してみよう、と思って書き始めたのがこれです。
……自分で衣替えしていたときに思いついたネタだとは誰も気付いてくれませんでしたが。

さて、続いて中編をどうぞ。
そのあとがきでまたお会いいたしましょう。

20021015
再アップ20080207