衣替え‐中編‐
 「うわぁ、いっぱいありますねぇ」
 部屋中に広げられた着物数の多さに、沖田は半ば歌う様に呟いた。
 「ええ。一人でやっていたら今日中にはとても終わりそうになくて」
 部屋の隅には綺麗に畳まれた着物が積み上げられているが、畳まれている数以上に広げられている方が多い。
 「では早速畳んでしまいましょう」
 市村が手近な着物を手に取り、手早く畳もうとしたところで沖田と山崎は顔を見合わせにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
 「市村君、ちょっとこれに袖を通してみませんか?」
 沖田が手に取ったのは鮮やかな空蝉の柄の西陣織の振袖。
 意外と趣味がいい、と山崎は思いつつも市村が断れないように言葉を重ねる。
 「ただ片付けるのも面白くないですからね。市村君、どうする?」
 沖田と山崎から断りがたい威圧感と共に振袖を勧められ、市村は断るに断れず不承不承頷いた。
 


 「沖田先生、出来ましたよ」
 市村の着付けの為席を外した山崎の分と、着付けられている市村の分まで一生懸命(沖田談)着物を畳んでいた沖田が山崎に呼ばれたのは半刻後であった。
 「いやぁ、こんなに似合うとは正直思いもしませんでしたが。……どうですか?」
 目を零れそうなほど見開き、口をぽかんと開いた沖田はとてもではないが『天才剣士』と謳われる人間と同一人物であるとは思えなかった。
 「うっわぁ……」
 と一言呟いたきり後は黙ったまま、かと思いきや突然部屋を飛び出して何処かへ行ってしまった。
 「沖田先生と山崎先生は二人して私を騙したんですね」
 本人ぎろり、と睨んでいるつもりなのだろうが、元来の顔立ちが良く、更に化粧を施されて今や美姫同然の顔で睨まれても、迫力こそあれその中に色香を宿しているそれでは美しさを引き立たせる材料にしかならない。
 「すみません。でも、物凄く似合っているんですよ。試しに鏡を覗いてみて下さい」
 「結構です。それにしても沖田先生は何処へ行かれたんでしょうか?」
 まさか土方先生の所になんて行っていやしませんよね、と先程の怒り顔とは一転、憂いを秘めたその表情で山崎に尋ねる市村に、その可能性が全くないわけではない、などと山崎は言えるはずもなかった。




後書きと言う名の言い訳
まだ中編です。まだ続くんです、これ。本当にすいません。
んでも一つに纏めてしまうと異様に長くなってしまうんですよ、これ。ので三分割にしたんですけど。
……ああ、壬生狼の設定では市村は美少年、になっています。じゃないと女装ネタも楽しくないですしね。勿論沖田さんも美青年ですし、土方さんも美形な方ですよ。
ビジュアル的に麗しくないとやってられない話です。

それでは後編の後書きでお会いいたしましょう。

20021015 
再アップ20080207