帰還
 「君は……隊士かい? 随分幼く見えるが……年齢は?」
 暫く屯所を空けていたら、見ない顔が随分と増えていた。
 道場に顔を出せば、血気盛んな年頃の若者たちが熱心に竹刀を振っていた。
 それを嬉しく思うと同時に苦々しくも思い、帰ってきたことを近藤らに告げようと足を向けた先にいたのが、凡そ刀を振るうとは思えない小柄な少年だった。
 清冽な、強い光を目に宿した幼い少年。
 「はい。土方付の小姓で市村鉄之助と申します。歳は一四です。大変失礼ですが貴方はどちら様ですか?」
 呼び止められたと同時にその場に膝をつき、深々と頭を下げて名乗る市村に、慌てて山南も腰を曲げた。
 「ああ失礼。私は山南敬助。一応、ここのもう一人の副長なのだけれど、歳さんは今いるかな?」
 「はい。近藤先生と一緒にいらっしゃいます。山南先生もそちらへ行かれると一度で用がお済になると思いますよ」
 お茶を用意しますので失礼させて頂きます、ともう一度深く頭を下げ市村は厨の方に行った。
 (小姓、と言う事は刀は使わないのかな?)
 あの細腕で刀を握って人を斬る、というのはどうにも山南には想像し難かった。
 「あー! 御帰りなさい山南さん」
 「ああ総司、ただいま」
 ぱたぱたと足音を立てて駆け寄ってきた沖田に笑いかけられ、山南も笑みを返す。
 「市村君……あ、と、可愛い男の子を見ませんでしたか? ちっちゃくて良い目をしてる子なんですけど」
 これぐらいの背丈なんですよ、と自分の肩辺りを示して問う沖田に一つ頷いて。
 「そうか、総司には可愛い、か。見たよ。茶の用意をするとかで厨の方に行った」
 「私だけじゃないですよ。皆から可愛がられてます。……じゃなくて、お手伝いしようと思ってたんですよ!」
 一瞬鋭い視線で山南を見据え、何事も無かったかのようにぺこりと頭を下げて沖田は厨に駆けていった。


 「市村君に刀を持たせる気はあるのかい?」
 ただいま、も今帰った、もなく。
 近藤の部屋の戸を開いて開口一番に山南が口にした言葉はそれだった。
 「……俺はないが?」
 やや呆然とした顔のまま土方が返すと山南は満足そうな笑みを浮かべて
 「それは良かった。あ、今帰ったよ」
 と土方と近藤の近くに座った。
 「もう逢ったのかよ」
 「ああ。良い子だね。歳さんの小姓なんだろう?」
 渋い顔で尋ねる土方に対し、山南はにーっこりと笑顔で質問を返す。
 「いやぁ、私にもあんな小姓がいたらなぁ。留守の間に狡いねぇ、ね、近藤さん」
 と話を振られた近藤は今にも噛み付きそうな土方の視線と恨みがましい非難の色を浮かべた山南のそれとに挟まれ、泣きたくなった。
 (市村君……いや、贅沢は言わん。誰でもいいからここに来てくれ)
 事態を更に悪化させる人間でも構いはしないから、頼むから自分をこの二人の間で一人にしないでくれ、と近藤は心から願った。 
 「副長付、じゃなくて俺の、だからな敬助さん」
 「君の、小姓なんだよね、歳さん」
 妙に強調して言う土方に、これまた微妙なアクセントと笑みで返す山南がいたとかいなかったとか。





後書きと言う名の言い訳
やっとみつかりました山南さん! もう、本当に帰還って感じです。どこに行っていたのやら。
さり気に強い感じがしますよ、強力ライバル登場ですよ土方さん。これからまた色々と騒々しいことになりそうです。

さて、2002年の壬生狼はこれにて終了となります。
まぁ、パロディのほうが後二つ年内にアップされる予定ですが、本編は一応これで第一部完、みたいな感じです。
っても第二部になったからって何が変わるわけでもありませんが。ゆっくり時間を進めて行きたいなぁと思います。
で、第二部は来年の二月ごろからスタートの予定です。ちょっとお休みさせていただきますね。

それでは壬生狼異聞第二部でお会いいたしましょう〜

20021218 
再アップ20080207