伝説の木の下で |
「お前、俺の茶汲係になれ」 「僕、ですか?」 入学式にこんな会話を交わしてから早二週間。 私立壬生学園高等部の生徒会執行部室では毎日のように薫り高い紅茶が淹れられている。 「あー、土方さんだけずるいですよ! 僕にも淹れて下さい」 「はい」 「総司、てめぇの茶汲係はいねぇんだ。てめぇで淹れやがれ」 「僕じゃポットをカップに入れちゃいますもん。それに市村君の紅茶は美味しいんです」 「ありがとうございます、沖田先輩。二人分淹れてきますね」 ふわりと花が綻ぶような笑みを見せ、小柄な背中がパタパタと軽やかな足音を立てて給湯室に去っていく。その姿を満面の笑みで見つめ、それから沖田はにやりと笑って土方を見た。 人の悪そうな、何かを企んでいそうなその笑みに思わず僅かに後ずさり、土方は沖田の視線から逃れた。 「シンデレラボーイって、知ってます?」 「『あの人間嫌いな副会長がついにお茶汲係を決定!! 外部からの新入生のその彼はなんと小柄な美少年!?』って言うの見出しにしようかと思うんですけど。あ、お邪魔します」 「……どっから湧きやがった」 扉の開閉音など全くさせずに首からカメラを下げた青年―――山崎に冷たい視線をくれてやり、土方はため息をついた。 「ねぇねぇ、僕が会場整理をやっている間に会ったって言ってましたよねぇっ! 詳しく語って下さいよ!」 「あ、僕もそれ訊きたいです。これで売り上げ倍増確実だ」 頭を抱えたくなっている土方など全く無視して盛り上がる二人を黙らす為、土方は重い口を開いた。 それはもう、とてもとても嫌そうに。 入学式だというのに、桜が珍しく散らずに咲いていた。 案内や会場整理などといった煩わしい仕事を全て他人に押し付けていた土方は講堂裏で独り花見をしていた。 (誰が好き好んでこんなところに) 耳を澄ませばかさり、と小さな音。 視線を遣れば小さな影が大樹の根元で空に広がる桜色を声もなくただ見ていた。 白く伸びた指が抱えているのは湯気の上がる小さなカップ。 桜の香に紛れて紅茶の香が土方の鼻にも届いてきた。 「何をしている?」 びくり、と肩を震わせて振り返った顔は全校生徒の顔と名前が一致している土方の記憶にはなく、すぐに新入生だと知れた。 「あ……早く着き過ぎてしまって、ここに来たらあまりにも桜が見事だったのでお花見をしていたんです」 「新入生がか?」 「はい。あ、もう行きます」 思わずきつくなってしまった口調にもう一度肩をびくりと震わせて立ち上がる。 「待て」 逃げるように身を翻した彼の腕を捕らえていた。 びっくりしたように見開かれた目に映るのははらはら零れる花弁と自分。 「それ、紅茶か?」 「え? あ、はい」 飲みますか? と恐る恐る差し出されたそれを一口。 ほんの一口口に含んで土方は驚いた。 そして口をついて出た言葉が……。 「土方さん、『お茶汲係』の意味分かってますか?」 「……この間近藤さんに教えてもらった」 沖田に酷く馬鹿にされたような口調で言われ、土方は憮然とした面持ちで返した。 既に山崎は腹を抱えて大爆笑をしている。 「ひっ……おっかし……伝説の木の下じゃあるまいしっ! ……くくくっ」 「あ、山崎先輩もいらしてたんですね。足りるかなぁ?」 「こんな奴等に出す茶はねぇっ!」 放課後はあっという間にふけてゆく。 |
後書きと言う名の言い訳 |
……自分でパロディ作ってどうすんのさ、という感じですが。 書きたかったんですよ。とても。時代に縛られない彼らが。ので書かせていただきました。 裏設定で皆様も楽しめるのはサブタイトルでしょうか。 何処かで聞いたフレーズですよね。 3……2……1……。 答えは「と○メ○」です。はい、このシリーズゲームタイトルから貰っちゃいます。全部。 そのうちネタ切れ起こすまでは当分。 20021206 再アップ20080207 |