ダイスを転がせ!
 「僕の勝ちですね。じゃ、市村君、行きましょうか」
 語尾にハートマークを五つでも六つでも付けられる限り付けそうな声と共に斉藤は市村に振り返った。
 「お前絶対に細工してやがるだろ」
 「これ土方さんの持ってきたやつですよ」
 「一さんだけが勝ってるのってどう考えてもおかしいですよ!」
 「総司、世の中に不思議なことは何一つないよ」
 「……今度からカードにしませんか」
 「何でも持って来いだよ。だからね、三人ともそろそろ手を離してくれませんか?」
 やれやれ困った人達ですね、と口調は柔らかいものの決して目だけは笑わずに三人―――土方、沖田、藤堂を見るが、斉藤のそんな視線に慣れっこの三人は引かない。
 「市村君、今日は皆で何してんの?」
 「買出しに行く人を決めているはずなんですけれど」
 相も変わらず一眼レフカメラを首から下げた山崎が上辺だけ見ればとても友好的であるのにその会話は果てしなく非友好的な三人を見遣って不思議そうに尋ねた。
 が、しかし。どうやら話題の中心であるらしい市村も、何故この四人がこんなにも白熱しているのかは分かっていないようだった。
 んー、と唸り、彼らの手元を見て山崎は首を傾げた。
 色違いの八つの十面体がそれぞればらばらの数、と思いきや緑のその一対だけがぞろ目だった。
 「もしかしてさ、ぞろ目の人が勝ちなの?」
 「はい。でもなんで買った人が買出しに行くんでしょうね?」
 こくり、と可愛らしく頷いて「ね?」と同意を求める市村を、今すぐにここから持ち去りたい衝動に駆られたが、そんなことをしたら後々口にも出せないような恐ろしい目に遭うことは分かりきっていることなので止めておいて、山崎は再び市村に問う。
 「市村君は買出し決定?」
 「何で分かったんですか?」
 「それは……ねぇ……」
 この状態を見ればそう推測せざるをえないのだけれど。
 (つまりデート権争奪ってコトね)
 道理で会長と手強いなんてものじゃない副会長がこの場にいないはずだ。そしてあの二人がいない原因は明らかに
 「藤堂ちゃん、謀ったね」
 「何か言った? 蒸」
 ライバルは少ないに限るんだよ、とその目が言っていた。
 (だから俺もハブられたわけですか)
 流石あくどい藤堂ちゃん、と心の中で納得していると……斉藤はしつこい三組の手を払い終えたようだった。
 「山崎君は関係ないですよ。さ、市村君行きましょう」
 額に青筋を浮かべた斉藤がきょとんとしていた市村の手とその脇にあった茶封筒を掴んで生徒会室から出て行った。
 「おい山崎、何で斉藤を止めなかった」
 今にも噛み付いてきそうな土方に対し、至極真面目な顔で山崎は答えた。
 「だってあの人会計ですから」
 逆らったら部費削られちゃいますからね、と付け加えてにんまりと笑い、こう宣言した。
 「今度から俺もダイス転がしますから」
 覚悟して下さいね? と。




後書きと言う名の言い訳
……これ、分かる人いるのかな? 真保裕一さんの本じゃないんですよ。
昔SFCで出てたやつだと思うんですけどね。それのサブタイトルだったはずです。

何でしょうか。本編より確実にいい性格してる人が斉藤さんな気がします。そんな貴方は学校の財布を握る会計様。……ある意味最強ですね。

そして策略家藤堂ちゃん。この人のお蔭で出て来られない方が四人もいますね。さて、誰と誰と誰と誰でしょうか!

次は……体育祭辺りでしょうかね。五月ってそんなイメージです。

それでわ。

20021228 
再アップ20080207