知らなかったのか? 君は僕の宝物 「せっかくの男前が勿体無いぞ、少年」 強すぎる生命力に溢れた男は、軽い口調とは裏腹に。 ぎらりと獣のような双眸で俺を見下ろした。 階段の最上段から、振り向きざまに。 「もう少しそこで止まっていた方が良い」 「あんたに指示される筋はない」 「指示じゃないさ。忠告だ」 「……どういう意味だ」 逆光で表情は窺えない。 人のものではない光を宿した双眸だけ。 「耳を澄ませてみると良い」 一瞬だけ目を閉じて、辺りの気配を探れば。 ぱたぱたと階段を上ってくる、馴染みの感覚。 「学生は学業が本分だ」 歌うように紡いだ声が途切れた瞬間に。 「甲太郎! またサボろうとしたな?」 「……未遂だ。お前のせいで」 「うん。行こう、教室に」 「ああ」 肯定した途端に溢れる笑顔。 欲しかった光、手に入れたい光。 「龍麻お兄ちゃんも姿が見えないんだよね」 「探さないのか?」 「? なんで」 「一応あいつもクラスメート、だろうが」 「俺は甲太郎を探しに来たんだよ? お兄ちゃんは探してない」 くく、と意地の悪い笑い声は俺にしか届かなかったようで。 「甲太郎?」 「……遅刻するぞ」 「うん」 胸の中に広がったこの思いを、安堵と認めてしまったら。 あの笑い声も認めてしまうような気がして。 end