願いが、あるんです。 願い事1つ 「お、おにいちゃんって呼んでも、良い、ですか?」 いつも、どきどきする。 この人に会うと。 「俺を?」 「はい」 ぴりぴりしてるところなんて一つも無いし。 威嚇とかそういうのも、無い。 「俺なんかで良いの?」 「九龍さんだからです」 なのに、どきどきする。 優しい目、声、空気。 怖いことは何も無いのに、どきどきするのは、どうしてだろう。 「俺は五葉のままで良いの?」 ふんわり、にこにこ。 学校にいるときのこの人は春の太陽みたい。 「はい」 学校に、いるときは。 「五葉! 下がれ!」 遺跡の中でも。 「はい!」 怖いって言うよりは、やっぱり優しい。 僕が大きな声が苦手で、怒鳴られるのも苦手だって、知ってくれているから。 「おい」 「……は、い」 「もうちょっとこっちに寄っとけ」 「はい」 夷澤君は苦手だっていうか、睨むような目で見てるこの人も。 僕は、そんなに、嫌じゃない。 「そんなに心配しなくても、大丈夫だろ」 「そう、ですか?」 「信じてやれよ、お前は」 「……皆守先輩?」 いつもおにいちゃんの傍にいて。 見守ってる、その目が怖くないから、怖くないんだと。 言ったら、夷澤君には笑われたけれど。 今の、この人の、目は。 泣きそう、だ。 「お前が信じてやれば、あいつは倒れないさ」 言って、おもむろにおにいちゃんを引き寄せる。 ぎりぎり避けた、何かの刃。 「ありがとう、甲太郎」 「良いからお前は向こうに集中してろ」 「大切な弟を苛めてやいないかと気になっちゃってさ」 「馬鹿言え。ほら、まだいるぞ」 「了解」 僕の頭を軽く撫でて、駆け出す背中に。 「おにいちゃん! 頑張ってください!」 「あいよ」 ひらひら、と振られる手。 反対の手は既に武器を構えてる。 「怪我を、しないで」 祈るように呟く、僕に。 「そうだな」 返す先輩は、やっぱり何か辛そうな顔をしていた。 願わくは、この優しい人たちが。 どうか、幸せでいてくれますように。 end