まるでコマ送り再生のように。 何も望まない 異形が断末魔の悲鳴を上げて消滅したのと。 見慣れた背中が膝からがくりと前に倒れるのと。 俺の手が届かなかったのと。 「九チャン!」 八千穂の悲鳴が響き渡ったのとが、きっと、同じ瞬間で。 「九龍!」 地面に顔面をぶつける寸前で抱きとめた身体からは血臭が漂う。 腹から背中まで貫通したらしい傷は、支えている俺の手まで赤く汚す。 「怪我、は」 「あるわけないだろうが、この馬鹿野郎」 失いゆく血液のせいで青白い唇は。 庇った人間に対する言葉しか紡がない。 「ルイ先生呼んでくる!」 泣きそうな顔をして、けれども涙は零さずに八千穂が駆け出していった。 血を見て倒れるような女じゃなくて助かった。 「甲」 「喋るな」 「……ごめんね」 下がり始めた体温の。 冷たい指先で俺の手を掴んで、目を伏せる。 「ごめん、甲」 腕にかかる重みが、増えた。 「眠らないと身体に差し障るぞ」 尋常ではない様子の八千穂に叩き起こされ。 駆けつけた遺跡ではこいつに指一本でも触れたら許さないといわんばかりの皆守と。 激しい出血のせいで意識を失っているのか、抱かれるがままの龍がいた。 このままでは埒が明かない。 お前は腕の中で見殺しにする気か、と一喝すれば。 今まで見たこともないぐらい動揺した目が救いを求めるように私を見た。 「お前がついていても龍が起きるとは限らん」 峠は脱した。 札だろうが何だろうが使って、零れ落ちていきそうな生気を留めた。 出来る限りの処置は、したのだ。 「……まったく」 ただ、龍は死んだように眠っている。 恐らく二三日はこの状態が続くはずだ。 「皆守」 動く気配を見せない塊に毛布をかけてやる。 「何かあったらすぐに呼べ。一秒がことを左右する」 「……分かった」 私にできたのは、これぐらいだった。 こいつが遺跡に潜ることを辞めない限り。 遅かれ早かれこうなることは予測しておかなければならなかったはずだった。 冷えた指先。 きつく閉ざされた瞼。 異形に屈することだって。 執行委員の誰かに傷を負わされることだって。 他ならない、俺がこの手にかけることだって。 予測、して。 覚悟をしていなければならなかったはず、だったのに。 「どうして、俺は」 自分自身の手でこいつを守りきれなかったことを。 後悔、しているのだろうか。 最初からこうなるべきだったのに。 どうして、こんなに。 「九龍」 失うことが、怖くなってしまったのか。 こんなに心の奥深くまでこいつを招き入れてしまったのだろうか。 「九龍」 包み込んだ指先には、いまだ熱が戻らない。 「九龍」 神の存在など、認めもしないし、縋ることもしないが。 俺の正体がばれようとも。 それでどんなにこいつに軽蔑されようとも。 こいつに倒されようとも。 構いは、しないから。 「目を覚ませ、九龍」 他には何も要らない。 end