女神は微睡む 2 そもそも真珠が神殿にきちんと届け出をされている子供の中にいるんだったら俺たちが出張る必要は無い。 つまり。 「実は面倒臭かったりしないか、この仕事」 「今更だよ、榛名」 真珠は本当に生まれたばっかりでその能力を誰も把握していないか、その能力が認められた上で報告をされていない。 あるいはどっかの馬鹿どもが連れ去ったか、ということだ。 「手がかりも全然無いじゃねぇか。どうすんだよ」 「どうするもこうするも。この証を盾に聞き込みするしかないだろう」 「……国が幾つあると思ってるんだよ」 「それこそ知るか馬鹿野郎の世界だろ」 手がかり無しで辿り着けってのがそもそも間違いだ。 「まぁ、幸運と幸福の祝福を受けてる翠玉の騎士が一緒なんだからどうにかなるよ」 「自分で言うな」 道は最初っから果てしなく険しかった。 「兄さんたち女神の島から来なすったのかい?」 島から程近く、また裕福なことで知られるこの領は代々三橋家が治める三星領。 海に面していることもあってか港が非常に発達していて他の領や国との交易も盛ん。 海の交通の要。 交通量が多ければ多いほどそれに伴って情報量も必然的に多くなる。 藁だろうが何だろうが縋らなければならない俺たちにとってはうってつけの場所とも言えた。 「ああ」 「もしかすると十二席の方々かね?」 「だとしたら?」 港町の大通りから一本中に入った通りの食堂のオヤジが俺たちを見るなり眉をひそめている。 神殿と対立していたような噂を聞いたことは無いが、事情でも変わったか。 ちらりと高瀬を盗み見ると、やはり思い当たる節は無いのか不思議そうに首をひねっていた。 「いや、なに。あまり大きな声では言えない話なんだが」 急に声を落として辺りを警戒するように見渡す。 「十二席の証は、この界隈では外から見えないようにしておいた方が良いと思うぞ」 「島関係者だと何かあるのか?」 「もう少し奥に」 小さく小さくされた手招きに従い奥の席に腰を落ち着ければ、注文をとる要領で近付いてくる。 「もう三年程前になるかな。領主様の孫の廉様が夜盗に誘拐されたんだ」 「人攫いと神殿と何が?」 「実は廉様は女神の祝福を受けた子供だって噂があったんだ。だが領主様は孫可愛さに報告しなくて」 「で、その真偽を確かめる前に子供が攫われたってことか?」 頷くと何事も無かったかのように調理場に戻っていく。 「……夜盗じゃなくて神殿に連れ去られたとか思われてるってことだよな?」 「やり口が強引なんだもんな、うちのって」 自分に負い目があるから表沙汰には出来ないものの、不信感を抱くには十分すぎる出来事だとも言える。 「でもさ、一発目で当たりくじ引くなんて幸運じゃないか。さすが俺」 「自分で言うとあれだな。ありがたみが薄れるな」 「榛名が自分を無垢とかって言ったらどん引きだよな」 「「…………」」 それはさておき。 「ガキ探しが要するに真珠探しを兼ねてるってことで」 「頑張れよ幸運様」 限りなく暗雲が垂れ込めていそうな先行きだった。