女神は微睡む 4 「幸せかどうかっていうのは、その本人が決めることだから俺たちには保証できないよ」 お嬢の目から視線を逸らすことなく口を開いたのは高瀬だった。 身体に危険が迫る心配は、島で暮らしていればする必要は無い。 「でも女神の十二席は決して君の従兄弟を道具扱いはしない」 誓えるのはそれだけだ。 蔑むこともしない。敬うこともしない。 「廉が、廉でいられるのは私たちの側じゃないのね」 このお嬢は賢い。賢すぎるから、余計に俺たちに協力をしてもいいものか迷ってる。 「一つ、約束して下さい」 「出来る範囲内でな」 「廉に会わせて。ちゃんとお別れさせて。私だけじゃない、家の人皆と。お願い」 「約束する」 「十二席の名において、誓わせてもらうよ」 真珠の親石は俺たちの手に託された。 「しかしあれだね、歳の割に物凄くしっかりしてるお嬢さんだったね」 「珊瑚のガキよりしっかりしてた。あれ将来良い女になるぞ」 「利央は馬鹿なのが可愛いから良いんだよ」 「女神の最愛の片割れが馬鹿かよ」 「真珠が物凄く従姉妹似だったら割れ鍋に綴じ蓋で良いと思うけどね」 「そうか? 真珠って代々ぼやーっとしてるって聞いたぞ」 「じゃあ利央が頼り甲斐あるのに成長する……わけ無いか。ほえほえ二人かー」 「河合の旦那がますます父親業に専念するな」 「今でも十分お父さんっぽいのになー」 「ところで高瀬」 「俺も榛名に聞きたいことがあるんだけど」 「「ここ、どこだ?」」 真珠の親石の輝きが増すほうへ増すほうへと向かってきたのは良いのだが。 気が付けば繁華街やら中心部からは大分離れた場所に来てしまっていた。 海もあって山もあるってのは観光地としては良いかも知れないが、人を探すには本当に不向きだ。 海と山の間には人家もまばらにしかない。 「方角的にはこっちで合ってるんだけどな」 「このまま行くとあの山辺りに連れて行かれそうな気がしないか? 日が暮れる前に宿を探さないと」 「馬も消耗してやがる。てか腹減った」 時間の制限があるわけではないが、真珠が真珠としての力を発揮させられることが分かってしまった以上一刻も早く探し出してやりたい。 「最初に見つけた家で交渉で良いか?」 「お前に任せる」 交渉やら裏取引っていうのは俺の性に合わないし、向かない。 「……物凄く罠っぽい屋敷があるんだけど」 「何だよその罠って」 「ほら、良くあるだろ。もうここしかないって感じのところに屋敷を立てて旅人から色々せしめる輩の」 空が薄紫色に染まるころにようやく高瀬が見つけたのはたいそうご立派な門構えの屋敷だった。 領主の家とは比べ物にならないが、十分広い家。 「ここの領に裏取引で儲けてる貴族なんていたか?」 「いなかった気がするからこそ余計に罠っぽいんだって。どうする?」 どうするも何も無い。この先に家の影は見えないしこれを逃したら間違いなく野宿だ。 「聞くだけ無駄だろ」 「ちなみに俺の予想だと物凄くもてなしてくれるよ。力仕事は俺向きじゃないんだけど」 「馬鹿言うなよ。始末書の数は俺もお前も変わらないだろうが」 毒を食らわば皿までという言葉は何かが間違っている気がしないでもないが、乗り込むほかない。 何に待たれていようとも、だ。