女神は微睡む 7 「何だよこの白いの」 「こいつの真珠」 「こんなでかい真珠があってたまるかい」 「でもこいつのなんだ。な、レン」 小さな袋に入れて首からかけてやると、親石は落ち着いたらしくやたらめったらと輝きを放つのを止めた。 「……あんたら一体何者なんだ?」 ぎらりとつり上がった目を光らせて、叶がレンを背中に庇った。 まあ、こんなもの持ってる時点で俺も只者じゃないだろうし、術を見破った高瀬なんてとっくに怪しい奴扱いされてたんだろうけど。 「高瀬準太」 「榛名元希」 「子供だからってごまかすな!」 それはそうだけども、出来るだけ素性は切り札で取っておきたい。 だからといって誤魔化すのは性に合わない。 ……しゃあねぇな。 「高瀬、こいつらにかけられた術ってのはどうやったら解けるんだ?」 「っおい!」 「術の媒介に使われている呪具を壊せば、呪術もその効力を保っていられなくなるって慎吾さんが言ってたよ」 「それ、やっぱあの男が持ってるんだよな」 「多分。どうするつもりだ?」 「ぶっ壊す。でもってこいつ連れて島に帰る」 「この子たちは?」 「領主に世話させろよ。孫奪還祝いで」 「……まぁ、嫌とは言わないだろうけどな」 「いい加減にっ」 怒鳴りかけた叶の額に人差し指を当てて黙らす。 「女神の十二席の一、金剛石の騎士の名において誓ってやるよ。お前らを呪術から解放する」 「女神の十二席の一、翠玉の騎士の名において誓うよ。呪術から解放すると共に君たちを安全な場所に送り届ける」 名においての誓いってのは、自分自身と誓った対象に同時に働きかける言霊だ。 女神の祝福の力を借りて必ず実現させるための、呪術とは相反する奇跡を約束する言葉。 「何で十二席がこんなとこにおんのや」 自分の口から出た問いに対する答えを知ってて、織田は口にする。 今レンの首にかけられてる真珠がその答えでしかありえないから。 「それよりもこの屋敷の主の部屋を教えてくれる?」 「……分かった」 賢ければ賢いほど諦めるものの重みに傷付く。 いつだって子供ばかりが。 「場所だけ教えてくれりゃ良い。お前もここにいろ。てかいてくれ」 左手の意識を集中させて、小指の爪の先ほども無い欠片を三つ生み出す。 一つずつ持たせれば、こいつらを守る力になる。 清浄無垢、それだけが俺の力じゃない。 「終わったら迎えに来るから、それまでここでじっとしてるんだぞ」 「なんなら寝てても良いぞ」 俺と同じように高瀬も欠片を生み出して、一つずつ持たせた。 「なぁ、あんたらさ」 「何だよ」 「騎士なのに、剣の一本も持ってないじゃんか。そんなんで本当に大丈夫なのかよ」 自分もびびってるだろうに、泣き言一つ言わないのは背中に庇ってるレンのためってか。 ガキでも男らしいのなんのって。 「剣ならあるぜ? ただ荷物になるから持ってないだけで」 「あれあると注目されちゃうしな。同僚にも持って歩いてる奴ってほとんどいないし」 不信と不安がごちゃ混ぜの叶の頭をクシャリと撫でて、その後ろのレンを見る。 親石を身に付けた安心感からか、夢の国に旅立つ一歩手前。 その頬を軽く引っ張って、起こす。 「また後でな、レン」 にやりと笑いかけて、手を離せば袖を掴んで引き止められた。 「どうした?」 音を紡がない唇が、ゆっくり動く。 早く、帰ってきて。 起きて、待ってる、から。 そう、読めた。 「一番に俺の名前を呼ばせてやる」 さて、いっちょ諸悪の根源をぶっ叩きにいってみるか。