女神は微睡む 真珠認定儀式編1




 

 儀式そのものは簡単だ。
 彫工師に自分が生んだ石を指定の形に加工してもらう。
 細工師に、これまた指定の形の土台を作ってもらって。
 「十二席のそれぞれ一人ずつと、自分の石を交換するんだ」
 「こう、かん?」
 「今からこの土台にぴったり合う石をお前が生む。んで、それを十二席の誰かに渡して代わりにそいつに石を生んでもらう」
 自らの石と、同じく女神の騎士として叙せられた者の石とを並べ。
 女神の十二席である、ということを女神に認めてもらうための道具。
 そして十二席の者と自らの石を交換することで、自分という存在を認めてもらうための、儀式。
 ……俺も前にやったんだよなー。結構前だけどなー。
 「じゃあ、石の生み方の基本だけど……あんた、一体いつまでここにいるつもりですか」
 「いーじゃん別に口も手もなんも出してないんだからよー」
 「そういう問題じゃないでしょ。仕事はどうしてるんですか」
 「んなもん秋丸と高瀬に押し付けてきたに決まってるじゃん。レン、石の生み方なら俺が教えてやるって」
 俺は可愛いレンを膝の上に乗せてぎゅーっとした。
 柔らかいすべすべの頬に自分のを当ててにかーっと笑えば、レンもふにゃりと緊張を解いた。
 そ、緊張してんだよな、レン。
 タカヤがしかめっ面で偉そうにしゃべんのが悪い。
 大体子供相手に眉間にしわ寄せて話す奴がいるかってーの。
 「あんたみたいに指定された大きさの石を生み出せない人間に教えられてもこいつが迷惑でしょうが」
 「んだと」
 「も、とき、さん」
 ばちばち火花が散りそうになった俺の視線をタカヤから逸らせたのは小さな声と手。
 きゅ、と握った服の裾を遠慮がちに引っ張ったレンは、もう一度俺の名を繰り返す。
 「元希、さん、は、駄目、ですか?」
 俺にじゃなくて、タカヤにだったけど。
 「駄目ってんじゃないだろうけど。お前みたいなちびが力の制御も覚えないうちにがむしゃらに石生むのはお前のためにならないってこと」
 「制御なんかそのうち覚えられるじゃねえか」
 「未だに繊細な術使えないらしいあんたが言えることじゃない」
 「けっ」
 大きな目をぱちぱちと瞬かせてレンは俺とタカヤを交互に見た。
 「いっぱい、頑張ったら、元希さんに教えてもらえ、ます、か?」
 「……そうだな」
 「頑張るのは、隆也さんと、一緒に?」
 「十二席に十二席は育てられないけど、職人は十二席を育てられる。一人前になりたいか?」
 「は、い」
 「んじゃべったり引っ付いてるのには帰ってもらえ。一人でここに来れない奴に教えることは何もない」
 




 「で? 阿部君に廉君を取られちゃって不機嫌なわけですかおとーさんは」
 「おとーさんじゃねえ!」
 「でも阿部だっけ? 細工師が言ってることも一理あるだろ。廉は神殿出身でもなけりゃ石について何を知ってるでもない」
 「家庭教師の逆だと思っておけば?」
 レンに一人でも頑張れます、と絶対に頑張れなさそうな顔で見送られ、タカヤに追い払われて、結局詰め所に帰ってきた俺を笑い飛ばしたのは秋丸と高瀬だった。
 「自立早すぎんだろーよ」
 もっとべたべたに甘えさせて、あの喋り方もどうにかして、ぎこちなくない笑顔ができるようになってからでも遅くなかったじゃんか。
 まだ十なのに。いっぱいいっぱい可愛がってやりたい年頃なのに!
 「じゃあ迎えに行ってやれば良いんじゃないか?」
 べたーっと机に突っ伏したら上から声が降ってきた。
 河合の旦那は腕に珊瑚のガキ、じゃなくて利央と田島をぶら下げてやって遊んでる。
 いいなー、あれ。俺もレンにしてやりたい。
 ……って。
 「へ?」
 「阿部は『一人で来られない奴に』って言ったんだろ? 迎えについては何も言ってないんだから行ってやれば良い」
 「でも、俺呆れられませんかね」
 「いつからそんなに殊勝になったんだ?」
 余裕の河合の旦那にぐうの音も出ない。殊勝ってのとちょっと違うんだけど。
 「廉なら俺が迎えに行く!」
 「俺も!」
 「お前らじゃ道草ばっかりするし夕飯前に帰ってこないだろう?」
 腕から下りた子供二人は迎えに行く準備を始めて止められた。
 「「んじゃ皆で!」」
 声を揃えた妥協策に苦笑を一つ。
 頭を撫でて俺を見た。
 「お稽古事で頑張った子供は褒められながら家に帰るもんだ」
 「はいっ!」
 タカヤの名前が出るのはむかつくかも知れないけど、レンが頑張ったことに対してはたくさんたくさん褒めてやんないと。
 「やる気が出たところで準太と秋丸に押し付けた仕事をこなしてくれな」
 ……俺もレンに褒めてもらうか?




 「りーおー」
 「何だよ田島」
 「お前って誰と一緒に住んでんだっけ?」
 「和さん! 田島は誰とだっけ?」
 「俺は花井」
 「で、それがどーかしたのかよ」
 「別々なのつまんねえ」
 「そっかー?」
 「廉と一緒だったら楽しそうじゃん!」
 「たまには良いこと言うじゃん田島!」
 「今度お願いしてみようぜ」
 「お願いって、誰にだよ」
 「んー、いっちゃん凄い奴!」
 「いっちゃん凄い……?」
 「あ、分かった! 神殿行こうぜ神殿」
 「神殿人なんか偉くないぞ?」
 「もっといるじゃん! な、明日神殿行こうぜ!」
 「おう!」