女神は微睡む 真珠認定儀式編6





 
 なんだかんだで、レンの腕に通された環は日を追うごとに鮮やかな色彩を増していく。
 真珠以外の石は九。ということは過半数を超えたということ。
 あと半分が集まれば、認定儀式に必要な道具が揃って女神に騎士として認めてもらうことができる。
 「にしても、俺たちと入れ違いで島を出てった奴が多すぎやしないか?」
 「まあ、女神の思し召しだから仕方ないよ」
 「……そうかぁ?」
 「それに捕まらない奴が多すぎる」
 「まあ、それはそう思うけど」
 茶を啜りながら書類の山と格闘するのは珍しくは無い。
 本日ようやく花井に石を交換してもらうべく田島と一緒に一日中引っ付いている予定。
 ……レン不足だ。膝の上に乗っけて仕事をしてても構わないんだけどな、俺は。
 「未だかつてこんなに寄り付かないのも珍しい気は、確かにするけどな」
 「だろ? なーんかおかしいんだよ」
 先代の真珠の在位が長かったこと。
 冥府のあれに印を刻まれたこと。
 よりにもよって、女神の愛し子に、だ。
 「真珠が真珠として騎士に封ぜられない限り、女神の守護は受けられない」
 「「「「は?」」」」
 秋丸の呟きに返したのは俺と高瀬と。
 「久しぶり?」
 「ただいま戻りました」
 「……おかえり、浜田と巣山」
 疑問の答えになるかは分からないが、帰ってきた同僚だった。





 「じゃあなんだ、あれか。各地で冥府の使いどもが派手に暴れてるってことか?」
 帰って来ていない同僚達はその征伐に出かけているらしい。
 かといって島を空にするわけにもいかないから、凡そ半分が外へ。
 冥府の主自らが刻んだ印をその身に宿しているレンを守る力を持ったものを、島へと残して外に出ている、と。
 そういうことらしい。
 「本末転倒というか、してやられたというか」
 ちびどものために、ではなく自分の身を守るために一刻も早く真珠として認められることが必要になった、レン。
 「大至急藍玉と第八席と第十二席の二人ずつを呼び戻すか」
 「や、俺が代わりに行ってきますよ」
 「俺も出ます」
 河合の旦那の提案を遮ったのは戻ってきたばかりの浜田と巣山。
 「そういうわけにはいかないだろ。それこそ女神のお導きってのを乞うべきだと俺は思うぜ?」
 「慎吾」
 「狙いが真珠になる前の廉だってならとっとと真珠にさせちまった方が良いのか、それ以外か。俺たちが悩むより早いだろ」
 なあ、と振り返った扉の内には、藍玉の騎士の青木。
 「ようやく得ることができる同胞を奪われるわけにはいかない。……河合さん」
 帰ってきたらきたで、つまり面子が揃ったら揃ったで安穏とした日々が迎えられるでもなく。
 今までとは何かが違う、としか言いようの無い緊迫感で、満たされる。
 「で? 廉は」
 「花井と田島と一緒に行動してる。だな、榛名」
 「ああ。夕方になったら戻るって話です」
 「そうか。それなら先に神殿に行くか。……慎吾」
 「俺がここに残ってるわ。出てきてない奴らの呼び出しは適当にしておくからよ」
 てきぱきと二人で決めて、的確な指示を下して河合の旦那は出て行った。
 つい忘れがちになるが、島崎の旦那は河合の旦那の補佐みたいな役目を負ってる。
 ……まぁ、出かけてる山ノ井の旦那もそうなんだが。
 「つーことで、だ。いないやつら呼んで集合。和己が戻ってくる前に揃うようにな」
 指定席の椅子にだらりと背中を預けてにやりと笑う姿は、どこからどう見ても責任者っぽくは、ない。
 つーか、乱暴な注文だな、おい。
 「転移使える奴は使えよ。榛名、お前はとっとと廉迎えに行って来い」
 「……うす」
 暢気な逢引もどうやら打ち切られそうだった。