女神は微睡む 真珠喪失編6




 

 女神の十二席として失った、力。
 他の十二席と繋がる絆を持てない。
 女神の力を請う歌が歌えない。
 石は、生み出せる。半身を呼び出すこと、扱うこともできる。
 でも。
 一目見て、ああ、こいつも十二席なんだと。
 それだけで満たされる感覚は、もう失ってしまっていた。
 十二席である限り絶対の信頼を向けるべき相手は女神、その加護を享けている自分が。
 女神の加護を奇跡を愛情に。
 疑いを抱いたがために、失われた絆。
 女神と十二席。
 その間に確かに在った目に見えないそれを、失って。
 後悔は、確かにしたはずだった。
 けれど慣れてしまった。慣れたつもりでいた。
 監査の途中で通りかかった村に、子供が三人。
 買い物にでも来ていたんだろう、と。
 それだけで、済ませてしまった。
 もし、自分にまだ女神と繋がる力があれば。
 救い出せたかもしれなかった、子供。
 それが、真珠だった。







 「よう、男前が上がったか?」
 「河合の旦那」
 「悪かったな、真珠探索班に加わらせて」
 「……俺の後悔、気付いたのは旦那だけだったんでしょ」
 「ああ。あいつらから上がってきた報告書とお前が以前提出した報告書と地名が重なってたからな」
 見えないところに入れたら虐めだろ、と。
 容赦なく榛名は俺の顔を拳で殴った。
 「楽になったか?」
 河合の旦那も性質が悪い。つーか榛名の拳で責められて心の荷物が若干軽くなったことも事実だけれど。
 「そりゃもうすっきりしましたけどー」
 「なら良かったな。で、残りの二人は?」
 「高瀬には笑い転げられて榛名には膨れられました」
 「? 膨れられた?」
 「お前だけレンのちっさいころ知ってるのはずりぃって」
 「っはははは!」
 「河合の旦那まで!」
 目尻に涙まで浮かべなくても。
 「何お前ら馬鹿騒ぎしてんのよ」
 「島崎の旦那」
 「おー、男前が上がったなあ浜田。和己の笑わせどころまで習得して」
 書類の束ではなくて大きな酒瓶と杯を抱えた島崎の旦那がなんでここにいるのか。
 というか職場に酒瓶を抱えてきても良いものだろうか。
 「取り戻せる後悔で良かったな」
 見送りの宴だぜ、と投げつけられた杯と。
 「肴もないとつまらないよ。ぷっ、派手な顔、酒で余計に派手にして出かけておいで」
 袋詰めの肴がこれまた投げつけられて。
 「山ノ井の旦那まで」
 「報告書、俺はなるべく目を通してるからねえ」
 「俺は気になったのだけ読むけどな」
 知っていたから、というか予測が付いていたからこそ俺を指名したんだってことの。
 その意味を、改めて思い知らされる。
 「誰も見送りゃしねえからな」
 「不在に気付かれる前に帰ってきなよ」
 瞬時に悟れる絆はなくしても、まだ。
 だからこそ、絆が新しく紡がれてるんだってこと。
 満たされた杯を傾けたら、やっぱり切れた唇に沁みて視界が滲むから。
 「沁みるなー、もー」
 「明日はもっと腫れるぞ」
 「お化けになっちゃうねえ」
 涙、それで誤魔化して一気に呷った。
 



 なあ、真珠。
 お前をつれて帰ること、それが俺の自己満足だって否定しない。
 でもこうやって、共に在れる仲間を作って欲しいって願うことだけは、許してな。