5 ぐあいがわるいことをいっしょうけんめいかくします 「三橋」 「い、泉君」 「やっぱり。ちょい熱あるだろ、お前」 朝練で疲れてるのは俺も一緒。 だから一時間目ってのはまだちょっとふらふらしてることがある。 けど。 「いつもとふらつき方が違うからちょっと気になったんだよ」 「あ、で、でも」 「このまま授業出てたら部活で倒れるんじゃないか?」 「う」 こいつの部活好きっていうか野球好き、投げるの好きは野球部員だったら誰でも知ってる。 誰もお前のマウンドを取らないよって言っても絶対に納得しないくらい、執着心が強いってことも。 「ノートは取っておいてやるから保健室で寝てこいよ」 「で、でも」 「部活やりたくないのか?」 そんなことは絶対に無いだろうけど。 案の定ぶんぶんと首が取れそうなくらい横に振って、口をパクパクさせる。 「だろ? だからちょっと寝てきなって。昼休みになったら起こしにいってやるから」 ふわふわの頭をくしゃくしゃとかき混ぜて、もう一度額に触れる。 じわりと伝わってくる、少し高すぎる体温。 「泉、三橋どうかしたのか?」 「ちょっと熱っぽい感じがするから保健室で寝てこいって言ってんの」 「お、ほんとだ。うん、少し休んどいた方が良いと思うぞ?」 何かと三橋の世話を焼くのが好きな浜田も賛成派。 でも肝心の三橋はまだ保健室行きを渋ってる。 変なところで真面目だからな。 授業サボるのに対して良心が痛んでるんだろうな。 でも、三橋自身のために後もう一押ししておかないと。 「田島、ちょっと手貸して」 「ん? あれ、三橋熱あんの? 今日俺のキャッチ練習に付き合ってくれるんだから保健室で寝てこいよ」 触る前に田島が顔を見ただけで熱ありと判断する。 ……天才なのか何なのか。 でも練習を出したのは良い判断だ。 「で、も」 「三橋が部活出ないと花井とか沖が阿部とキャッチボールしちゃうかもしれないぞ」 「!」 阿部の名前は効果絶大らしい。 うーん、さすが飼育係もといキャッチャー。 「ほら、背中貸すから」 浜田の顔を見て申し訳なさそうに頷く。 「ごめんね、ハマちゃん」 「気にすんなって。それよりこういうときはごめんじゃなくて」 「ありがとう、だよ三橋。別に三橋が悪いんじゃなくて浜田が好きで三橋を背負いたいだけなんだから」 「泉、君」 俺の顔と浜田の顔、そして田島の顔を交互に見て。 「ありがとう」 ふにゃりと浮かべた笑顔は。 いつもの、じゃなくて。 「おう。ノートは俺に任せとけ」 あの田島が思わず言葉を失って。 背中に三橋を背負ったばかりに見損ねた浜田が悔しがるほどの。 笑顔、だった。