9 あそぶのがとってもすきです





 三橋は当たり前に知っていそうな遊びを知らない、ということに多々気付くときがある。
 そういう時はなんだか胸の奥がきゅうと締めつけられて、鼻の奥がつんとして。
 涙は零れないけども、言葉にならない気持ちでいっぱいになる。
 「ここ、ん、とう、ざい?」
 「そ。たくさん言った奴が勝ち!」
 「田島、それ全然説明になってねえぞ。古今東西ってのは、たとえば。色をお題にすると」
 「青!」
 「んー、黒」
 「赤。つーようにそのお題に合ってる答えを一つずつ順番に答えていくわけ」
 「で、答えられなくなった奴から順番に負けで残った奴が勝ちなんだ。簡単だろ?」
 「う、ん」
 「んじゃ最初のお題は三橋が決めて良いぞー」
 「! そ、れ、じゃ」
 頭の上にはてなマークが浮かんだらさくっとルールの説明。
 そうすると俺らの中でも追加ルールとか地域ルールがあってそういうのの統一もできる。
 知らないのもあるから、それで俺も知らなかったぜ、その一言。
 それだけで、三橋はほうっと肩の力を抜く。
 たかが遊びされど遊び。
 くっだらないようなのでも誰でも知ってると思い込んでいるそれでも知らない奴がいるってこと。
 当たり前は当たり前じゃないってこと。
 三橋といるとたくさんのことに気付かされる。
 だから俺らは結構遊んでる。休み時間やらなにやら。
 三橋の当たり前を増やそう計画(立案田島命名俺賛同者浜田)の一環だ。



 「九組って見かけるたびに遊んでるよな? それも時たまえらく懐かしいのやってるし」
 「ああ、定番だったやつな」
 「そーいやこないだ教科書借りに行ったときセブンブリッジやってたよね」
 「? 俺が見たときはウノだったけど」
 「え、すごろくとか人生ゲーム系のやってなかった?」
 「……ちょっと待て。泉、お前何笑ってんだよ」
 部活前の着替えという本当に短いひと時の話題に例の計画の一部が上がった。
 田島と三橋がしりとりをしながらここに来たからであって、今のところ部員は誰も知らない。
 「田島立案の壮大な計画があってさ」
 くくく、と笑えば不思議そうな視線やら物言いたげな視線が俺に刺さる。
 「田島立案で泉も参加してるってことは、三橋関連?」
 「さすが西広先生。鋭いな」
 「ありがとう。でもって良い方向に持っていこうとしてる、だろ?」
 にこりと笑う西広は本当に察しが良い。
 やっぱりナイスレフトだ。
 「てか九組全体乗せてるんじゃないだろうな?」
 「ああ、なんか俺ら発祥で広がったんだよ。今のブームはなぞなぞな」
 「頼むから授業中に始めるようなことだけは避けてくれよ?」
 「休み時間に遊ぶってのがメインだからそれはねーよ」
 あ、違うか。休み時間に友達と、がだ。
 「なんか、本当に九組っていうか田島と泉って三橋を大切にしてるよね」
 「阿部とは違う大切の仕方だけどな」
 「捕手が投手に尽くすのと同じことしたって意味ねえだろ。それに俺ら友達だし」
 「え、ちょっとちょっと。栄口と花井は分かっちゃったの!?」
 「休憩中にしりとりでもすっか?」
 「おー、いいねいいね」
 なんやかんやで俺と田島だけじゃなく。
 野球部全員が三橋を大切に思ってるのが、当人がいないとこで再認識されるのは結構あることだ。
 



 でもって。
 遊びといえども容赦がないつーかきっとこいつはこいつで。
 好きな子ほどいじめたいとかいうもうとっくに通り過ぎ去っててくれガキの頃に、と。
 本気で思うくらい容赦なく。
 「うさぎ」
 「ぎ、ぎ、ぎ……」
 末尾攻めで阿部が三橋を薄ら寒い笑顔で追い詰めるのでしりとりだけは厳禁になった。