01.何言ってんの特別の好きに決まってんじゃん







 たかが1センチ。されど1センチ。
 この1センチのお蔭で俺は一番三橋に近い。

 「みーはしっ!」
 「う お」
 
 例えば阿部がぎゃんすか怒鳴ってて。
 三橋が俯いて、あ、とかう、とか小さな声を出してるとき。
 一緒に下を向いて声をかける。
 そうすると俺と真っ直ぐに目が合う。

 「あんまり泣くと目が溶けちゃうってじっちゃんが言ってたぞ!」
 「あ う」
 「三橋の目って髪と一緒で色薄いのなー。溶けても美味そうだな!」
 
 ぼろぼろ零れる涙も美味いかも。

 「う ひゃ」
 「田島ぁっ!」

 ちょこっと舐めてみたら、やっぱ普通のより甘い気がした。
 美味いかも。
 気に入ったから両手でほっぺたを押さえてぺろぺろ舐めてみる。
 やっぱ、甘い。

 「た、田島く」
 「お前の涙甘いのな。目も溶けたら絶対に甘いな!」
 
 ちょっと腫れちゃってる目元まで舐めたら、もう涙は流れてこない。
 びっくりして真っ赤になってる三橋と目が合う。
 
 「田島、お前は良いから向こうに行ってろ」
 「やだよーだ」
 「てめっ」
 「だって俺が向こうに行ったらまた三橋泣かせるもんね」

 今度は後ろからぎゅーっとして阿部を睨みつける。
 上から睨んだら怖いじゃんなー。
 ただでさえ怖い顔してるんだからもうちょっと考えろよ。

 「だからぜってーに一人で置いてかない」
 「俺は三橋に用があるんだよ!」
 「俺がいたって問題ないだろ。キャッチャーとしてピッチャーの三橋に用事があんならさ!」
 「ぐっ……」

 やった! 俺の勝ち!!
 だって俺間違ってないもんね。

 「阿部、田島の言うとおりだよ。三橋も怯えちゃってるじゃないか」
 「栄口、てめぇまで俺の敵か!」
 「違うよ、俺は三橋の味方で正しいほうの味方」
 「だろ! ほらみろ阿部! 三橋、ちょっと向こうで俺の練習に付き合ってよ」
 「田島君、の?」
 「そ。阿部と栄口はふくしゅしょーどーしの話し合いがあるんだよな」

 阿部には栄口を押し付けて三橋を引っ張ってずるずるずる。
 阿部が何か言ってるけど気にしない! 気にしない!!

 「田島君」
 「ん? あ、また泣きそうだぞ三橋。どうかしたんか?」
 「あ、ありがとっ」
 
 真っ赤な顔で、一生懸命両手握って、勢い良くふわふわの頭が下がって、上がった。
 ……泣きそうなんじゃなくて、一生懸命で顔が真っ赤。
 
 「おうよ! 俺は三橋が好きだからいつだって助けに行くぞ」
 「す、き?」
 
 三橋の顔がもっと赤くなる。
 耳も首もまっかっか。

 「俺も、田島君が、好き、です」
 「ほんとか!?」
 
 大声で聞く俺にこくこく首振る三橋は可愛いけど、なーんか俺の好きとは違う気がする。
 
 「皆、好き、でいて、良い?」
 「そりゃ良いけどさー」

 やっぱハズレの好きだった。
 俺の好きは違うんだな!
 
 「だ、ダメ?」
 「ダメじゃない! けど俺の好きはちょっと違うんだな」
 「違う、の? 好き、はたくさん、あるの?」
 「あるに決まってんじゃんか!」

 三橋がぐるぐるし始めた。
 バクハツする前にちゃーんと言っておかなくちゃな!

 「俺の好きは特別の好きだぜ、ゲンミツに!」
 「特別の、好き?」
 
 そうじゃなきゃ涙は甘くないし、いっつもひっつきたいと思わない。
 1センチ低いのが、ちょっと悔しいけど嬉しいなんて思わない。

 「三橋の好きも特別の好きにするからな! 覚悟しろよ!」

 不思議そうな三橋に俺はばばーんと宣言した。