02.そんなに信用無いかな〜俺 「なー、水谷」 「? どしたの田島」 「どうやって告白すると成功すんだ?」 「えー、俺自分から告白したことって無いから分かんない……じゃなくて! えー!?」 田島が休み時間のたびにと言っても良いくらい7組の教室に来るのはいつものことで。 また花井に食い物でもねだりに来たのかと思ったら今日は違って。 俺の机の前でいきなりしゃがみこんで。 俺の顔、じーっと覗き込んで。 珍しく悩んでるみたいで。 で、口を開くなり、これだもん。 びっくりすんの、当たり前じゃない? や、田島だって花の高校生なんだからそういうお年頃だってのは分かるんだよ? 馬鹿にするとかそういうんじゃないんだよ? でもオ○ニーがどうのとかそんなんばっかり言ってる奴がだよ? 恋バナ。 それも俺に。 「告白って」 「どんな風に言われたら付き合おうって思ったんだ?」 冗談じゃなくて本気の本気に。 相談、なんだ。 「知らない相手なら、友達から、みたいにしたけど?」 「知ってる奴」 「知ってるの相手だと、俺も嫌いじゃなかったらオーケーしてたよ」 「好きじゃなかったら?」 「悪いけど、そういう相手には思えないって断った、けど?」 俺の話を聞く田島は。 比べるのはおかしいかもしれないかもしれないけど。 野球をしてるときと同じくらい、真剣そのものの表情だった。 「で?」 「嫌われてるはずはないのに気持ちが伝わらないのはどうしてだろうって」 「…………田島の口からそんな台詞が?」 「そんな台詞が」 人から受けた相談を話して良いもんか? とも思ったんだけど。 うちの四番だし。 なにしろ田島から恋バナなんて滅多に無いし。 阿部が三橋係だったら花井は田島係だし。 「相手が誰だとか、そういう話は出なかったのか?」 「それがさ」 どんな子に告白するんだよって聞いてみた。 ほら、傾向と対策っていうの? ストレートに言われて嬉しい子もいればメールで告白とか電話で告白とか。 ラブレターが良い子もいるかもしれない。 だから、どんな子に告白するのかタイプだけでも良いから教えてよって言ったんだ。 そしたら。 「心当たりが、ある気がするんだよ、俺」 「心当たりだ?」 知ってる子なのか? って花井の問いに頷いて。 「花井も知ってるよ」 「俺も? うちのクラスとかか?」 だから良くうちのクラスに顔出すのかーって勝手に納得してるけど。 「違う」 「俺あんまり他のクラスに知り合いはいないぞ?」 「9組だよ」 「クラスメート? お前9組の子に詳しかったっけ?」 何か、口に出すのが悲しくなってきたって言うか。 難しくなってきたって言うか。 ……花井の胃にとうとう穴が開くんじゃないかなーって言うか。 「詳しくは、無い」 けど、その子……いや、田島の想い人についてだったら結構知ってると思う。 「ヒント、その1。性格は、暗い」 「田島の正反対じゃないか」 「その2、弱気で卑屈」 「……え」 「3、食べるのは好き。野球も好き。投げるのが一番好き」 「ちょっと待てー!」 あ、花井が壊れた。 「だってさー、田島の話聞いてたらそうでしかないんだもんよ」 「だからってお前」 「ふわふわしてて可愛いとか?」 「……マジか?」 「マジもマジ。大マジ。田島超真剣だった」 だから花井にだけ相談することにしたんだって。 こんなの阿部の耳に入ったら大変なことになる。それこそゲンミツに。 「好きだって言っても分かってもらえないのも頷けるなーって」 「そりゃ、まぁ」 「どうしたら良いと思う?」 「どうするもこうするも、とりあえず阿部には内緒にしておかないと駄目だろうよ」 「だよね」 「てか三橋の方はどうなんだろうな」 「何が?」 「三橋が田島をどう思ってるのかってことだよ。田島の一方通行って断言するには、相手が悪すぎるだろ」 人の好意に対して絶対的に鈍すぎる三橋が田島から寄せられる好意に対して。 多分、恋愛感情の好きだって分かってないから田島の思いが伝わらないのであって。 友情と恋愛感情の違いが分かったとしても。 「田島に嫌われると思ったら、断れないんじゃないか、三橋」 「……だよねぇ」 そこを、田島が分かっちゃってるのが凄いなーと思った。 だからきちんと告白したいんだろうなー、とか。 でももしもつれちゃって野球部全体の空気が悪くなったらどうしよう、とか。 色々、思っちゃったわけで。 「泉と栄口も巻き込む方向でどうだ?」 「田島係と三橋係一人ずつ追加?」 「お前一人に三橋係が勤まるとは思えないから」 「……そんなに信用無いの、俺」 「お前一人で阿部の追及を逃れられるとは思えない」 「お気遣いどうもありがとうございます!」 かくして田島と三橋を見守ろうの会が野球部内に発足されたのだった。