可愛いことを真面目に言うから。 もう一度キスしよう 「甲太郎、それ、まだ必要なのか?」 最近は滅多に火を点けなくなった。 けれども手放すに手放せないアロマを取り上げ、問う。 「なんとなく、だな」 「口寂しいってやつか?」 「染み付いた習慣はそうそう抜けないってこった」 以前のようにこれが無ければ心を落ち着かせることができないわけじゃない。 ただ、手放すきっかけも無いだけのことだ。 「ガムとかキャンディは?」 「甘ったるいのはごめんだな」 「眠気覚ましのガムもあるだろ」 「夏場はどっちも溶けて最悪だぞ」 む、と口を結んで黙り込む九龍の顎を掴み。 驚きで見開かれる目を無視して唇を重ねる。 最初は触れるだけ。 舌で抉じ開けて、中を蹂躙する。 逃げていた舌が観念して絡む頃には背中に腕が回されている。 「口寂しいといえば、これだろう」 「……そうなのか?」 「下手な禁煙ガムよりもよほど効果があるな」 言って、濡れた唇を舌でたどれば。 「お前とのキスは甘いだのどうだの言うくせに、良いのか?」 あまりに的外れなことを言う。 「自分じゃ分からないのか?」 「甲太郎とのキスが甘いかどうかか? 分からないな」 「なぜ?」 「気持ち良いからな。味まで覚えていられない」 にこりと笑顔で断言する九龍を。 今度は軽く肩を押して倒す。 「甲太郎?」 「分かるまでしてやるよ」 「や、別に」 「口寂しいんだ。付き合え」 一週間ほどでアロマは姿を消した。 end