一緒にいるよ、と笑うけれど。 約束をしよう 「甲太郎、甲、痛い。離して」 「嫌だ」 「そんなに強くしなくたって、俺はここにいるだろ」 「嘘だ」 「……仕方ないなぁ」 諦めたように全身の力を抜いて九龍が俺に全てを預ける。 本部が、報告が、協会が、と。 その単語を聞くたびに、俺はこいつを強く抱きしめる。 「俺はちゃんと約束したよ。甲太郎が卒業するまでここにいるって」 ぐずる子供の相手をするような口調でこいつは俺を宥めにかかる。 呆れられている。 きっと。 それでも。 「明日起きたら急に消えてるかもしれない」 「そんなことない」 「俺が寝たら出て行くかもしれない」 「こんなにぎゅってされてるのに?」 「俺を置いてどこにも行くな、九龍」 こいつの職業が何なのか、頭では理解している。 ここの遺跡の調査はもう終了した。 調査報告だって送り終えている。 協会からはきっと次の調査に向かうように指示が下されている。 「甘えん坊だな、甲太郎は」 「煩い」 「置いていけるはずがないだろ」 きつく回した腕から逃れるように身を捩り。 自ら、俺に腕を回す。 「隣にいないなんて、考えられないよ」 「く、ろ」 「俺のバディは甲太郎以外に考えられない。本当だよ」 深い蒼の目は情けない俺の顔を映している。 偽りも悲しみもなく、ただ俺だけを。 「協会からいい加減にしろって催促が来てるのは、確かだよ」 「……やっぱり行くんじゃないか」 「そりゃ、行くよ。でも今すぐじゃない」 俺の言葉を肯定して、すぐに否定する。 「今すぐにでも行きたいって気持ちも、嘘じゃないよ。でも」 「でも?」 「甲太郎が隣にいなくちゃ、意味が無い」 泣く一歩手前の顔で、九龍は俺に抱きついた。 うつむいた顔。 表情は見えないけれど。 「どうして、お前が泣くんだよ」 「泣いてない」 「泣いてないなら顔を上げろ」 「上げない」 「……結局泣いてるんじゃないか」 さっきまで縋りついていたのは、俺なのに。 今は、こいつが俺に縋りつくように。 泣く。 じわりと肩口が濡れる。 悪い気はしないが、泣かれるのは苦手だ。 「皆から、甲太郎を奪ってなんか、行けない」 「おい」 「高校生、終わるまで、連れて行けない」 「九龍」 無理やり引き剥がした顔は溢れる涙で濡れていて。 擦ったら腫れてしまうだろうから、柄にもなく唇を押し当てた。 「遺跡も、甲太郎も、どっちも大切なんだ」 「ああ。分かってる」 「分かってるなら、不安になんて思うな」 「悪かった」 震える背中を抱いて、心から謝る。 泣きながら殴られたあの日、もう二度と泣かせないと。 心に固く誓ったのに、また泣かせている。 「お前を、信じなくて悪かった」 「甲」 「もう、泣かないでくれ。頼むから」 「……俺を、俺の言ったことを、信じてくれる?」 「信じる。疑わないと、約束する」 「本当に?」 「絶対に、だ」 お前が笑ってくれるのなら。 幾つだって幾らだって約束する。 誓うから。 だから。 「笑ってくれ。九龍」 end