女の子が身体を冷やすもんじゃないよ、と。 鮮やかに笑う、君の顔。 スカートに雨粒 「すぐそこだし、平気だよ?」 「駄目。良いからやっちーは一人でその傘をさしなさい」 急に降り出した雨で部活は休み。 一緒に帰ろうという誘いには乗ってくれたのに。 「でも九チャンが濡れちゃうよ」 誘ったのはあたし。 だから傘に入ってもらわなきゃ困る。 「そうだねぇ」 「そうだねぇ、じゃなくて」 「だったら、俺よりもやっちーの傘に入れてあげたい人がいるんだけど」 「え?」 首を傾げれば、九チャンはにこりと笑って。 「白岐」 「……九龍さん?」 「傘、無いだろ? やっちーに入れてもらって帰りなよ」 おいでおいで、と気安く白岐さんを呼んであたしの傘を指さす。 「「え?」」 あたし達二人は同時に驚いて。 「九チャンずぶ濡れになっちゃうよ?」 「私は風邪は治せないわよ?」 全然何の解決にもならないことを言った張本人を見た。 「ああ、俺は大丈夫」 にこにこにこ。 ……こういうときの九チャンは絶対に引かない。 「なぁ、甲太郎」 さっきから無言だった皆守君にいきなり話を振る。 「……なんで俺が」 「大和に頼むのは気が引けるだろ?」 「…………分かったよ。八千穂、お前は白岐を入れていけ。白岐、お前は」 「八千穂さん、良いかしら?」 あっという間に話はまとまって。 「モッチロン!」 「じゃあ、二人ともちゃんと身体拭くか早めにお風呂に入るか何かするんだよ?」 身を寄せ合って入ったあたし達はそんなに濡れていなかったけれど。 やっぱり男の子な九チャンと皆守君は結構濡れてしまっていて。 「お前は俺たちの親か何かか」 「ひっどーい。心配してるんでしょ。ね、九チャン、風邪引かないでね」 「うん。また明日、やっちー、白岐」 「またね」 「また明日」 男子寮の前で別れて、急いで女子寮に向かう途中。 「ごめんなさいね」 「え?」 「九龍さんと一緒に入りたかったんでしょう?」 白岐さんがごめんねって顔であたしに言う。 「そんなこと無いって。白岐さんこそあたしとじゃ嫌だったよね?」 「いいえ。助かったわ」 笑った白岐さんの顔を見て、あたしは大切なことを思い出した。 『もっと白岐さんと仲良くしたいんだけど、どうしたら良いかなぁ』 『一緒に帰ってみるとかは?』 『うーん。あたしはテニス部で白岐さんは美術部でしょ? きっかけが無いんだよね』 『そっか。じゃあきっかけが作れるようにサポートするよ』 「ああ!」 「どうしたの?」 「ううん。なんでもない。ただ、白岐さんとこうやって一緒に帰るの初めてだなって」 彼の優しさは分かりやすいものとそうでないものと二つあって。 「そういえば、そうね」 「またさ、一緒に帰ろうね」 「……ええ」 どっちも、嬉しい。 end