草津の湯でも治らない 文責:調査員花井 fromN.I.O.設定 どうにかならないもんだろうかあの鬱陶しさ。 と基本的に気は短くないはずの俺が心の底から思うんだから相当鬱陶しいんだと思う。 「阿部。顔が鬱陶しい」 「な」 「いい加減携帯閉じて仕事してくれる?」 至極爽やかな笑顔で言い放った栄口の方が限界だったようだ。 まあ、向かいの机で携帯を眺めながら悦に入ってる阿部が嫌でも視界に入ったら、ああなるかもしれない。 「はーないー、今日はどうしたの、阿部」 「何で俺に聞くんだ、水谷」 「だって今あそこブリザードなんだもん。やだよ」 密談にはおよそ似つかわしくない声量で聞いてくる水谷にも頷ける。 ……メール、だと思うんだが。 「どーせ三橋からのメールだろ。うっぜえな、阿部」 「うわ泉いつからそこに」 「てめぇが資料取って来るって言いながら全然戻ってこないからだろうが!」 「あー、そだったそだった。ごめんね」 「つか花井、あいつマジキモいからそう言っといてくれな」 「俺に任せて出かけるのか」 「だってあそこに突っ込んだら仕事しに行けねえもん」 「……分かった。努力だけする」 「がんばれー、がんばれー、は、な、いっ!」 「お前のエールは要らねえ」 分析二人組を見送って、もう一度極寒の地へ目を向ける。 向けたことを後悔したくなってももう遅い。 「お前、このメール見て仕事ができるわけがねえだろ」 「へぇ、どんなメール?」 「勿体ねえから見せねえ」 「……阿部、俺に喧嘩売ってるよね?」 「まさか。ただ俺はこのメールに浸る時間を寄越せと言ってるだけだろ」 「そういうのは休憩時間に満喫すれば良いだけの話なんじゃないの?」 俺なんか悪いことしたっけか。 「西広、沖、俺は何かこういう目に遭うようなことをしたと思うか?」 「まさか花井に限ってそんなことないって!」 「きっとそういう星の下に生まれただけだよ」 「「西広!」」 ちょっと悲しい気持ちになっている間に。 栄口が阿部の手から携帯を奪い取っていた。 ……俺、絶対に栄口だけは敵に回したくない。 俺の心の声が聞こえたのかぶんぶんと沖も首を縦に振っていた。 西広は凄いなあ、栄口と全く動じていない。 ……西広も敵に回したくない。 沖もこれまた同意してくれた模様。 はぁ、とため息をつけば。 「『お仕事頑張って下さい』……そっか、分かった阿部。三橋には花井から返信しておくから」 「うぇっ!?」 「花井、ありのままの阿部の様子を送ってやって? ねえ、頑張ってる阿部?」 「ちょ、待て栄口」 「携帯見て蕩けてた、なんてかっこ悪いメールは送られたくないよね?」 はい、と手渡された阿部の携帯をどうしろと言うのか。 恨みがましい目で見たところで俺が栄口の圧力に抵抗できると思っているのか、阿部。 俺はそんな自らの寿命を縮めるような選択はしない。否できない。 「……今この瞬間からので良いのか?」 これが最大の譲歩だった。 「おー、三橋メールかー?」 「う、ん。あ、花井、くん、から、だ」 「へー。珍しいな。なんだって?」 「え、と、ね。『阿部は今書類の山をさくさく片付けてるところだ』だって」 「ふーん。じゃ、今行っても邪魔になっから泉と水谷のとこにおーえんしに行こうぜ」 「う、ん!」 「じゃ俺がメールしとくな」 「わ、かった」 「……阿部、なぜか田島から俺のところにメールが来たんだが」 「それがどうした」 「『阿部の邪魔になるから今日はそっち行かないで三橋と一緒に泉と水谷のところに行ってくる』だと」 実に楽しそうな栄口の笑い声と阿部の呻き声の二重奏はもう二度と聴きたくない、と心から俺は思ったのだった。
期間限定キリリク「49001」 ゆき様へ。 ご本人様のみ持ち帰り可、です。 リク内容は 365の西浦リサーチ設定のアベミハでした。