愛し愛されて生きるのさ  from水の中のナイフ





 血が遺せないのはとても残念なことだけれど。
 運命のたった一人に出逢えたのだから、きっと幸せ。


 


 「あー、やっちった」
 「た、じまくん、血、が」
 「あ、怪我じゃねえから大丈夫だぞ、三橋」
 「で、も」
 「あ! じゃあいつものあれやってくれよ」
 「う、ん」
 神剣を持ってる奴以上に守れる奴っての少ないんだって話を聞いた。
 その日にもう来た、三橋を狙う奴っての。
 俺が真っ向勝負してやるっつってんのに、三橋ばっか狙うんだよなあ。
 ひきょーだ。
 「目、つぶ、って、て、ね?」
 「ん」
 左腕の内側のところ、石が跳ねたのがさっくり当たって切れた。
 特に怪我ってほどでもないけど、うっすら血の筋ができた。
 こういう怪我とも呼べない程度のそれでも、三橋はすっごい気にする。
 俺が傷つくの、嫌なんだって。
 ……守る奴ってのは、癒すこともできて。
 だから、三橋は俺の傷を治してくれる。
 やらかい唇が、傷口たどって。
 ぴりっとした熱が一瞬、すぐに痛みが消えて。
 治る。
 三橋が俺にちゅーしてんの、見られるの嫌なんだって。
 いっつも見てっけどさ! 内緒でさ!!
 「い、たく、ない?」
 「もっちろん。三橋が治してくれたからどっこも痛くねえよ」
 「よ、かった」
 ふわーって笑われると、すげぇ、心臓が痛くなる。
 のと同時に胸が熱くなる。
 俺の、たったひとりの、たいっせつな運命。
 



 

 
 
 「運命は良いけど、お前ら今の状況分かってんのか?」
 「なんだよ、せっかくらぶらぶなの邪魔すんなよなー!」
 「ら、た、田島くん!」
 「きゅーに動いたら足場崩れるぞ、三橋」
 「! あ、りがと、う」
 「おーよ」
 「だからなあ」
 すっかり忘れてたけど、今は一触即発の危機とか言うやつだった。
 なんだっけ、何使いだっけ?
 「壁の姫、奪っちゃおうって話なんだよ。ねー、阿部」
 「うっせえ似非壁張り」
 「ひどっ! ねえこいつ酷いと思わない!?」
 「んー、しつけえ。なんっども言ってんじゃん。三橋は俺の運命なの。三橋の運命は俺なの。な!」
 「う、ん。俺、田島くん、大好き、だよ」
 「! 俺も好きー! 超好き!!」
 もっともっと背が高くて筋肉も付いてたらお姫様抱っこっていうのしてとっとと逃げるのになー。
 んで痛くないとこも全部ちゅーしてもらうのにな。
 邪魔だなあ、阿部。
 「無視すんじゃねえ!」
 びゅん、って凄い勢いで飛んできたたくさんの刃、全部届く前に綺麗に消えた。
 俺にしがみついてる三橋の手から流れ込んでくるあったかい光に、一つ残らず変わったから。
 「うっわ、凄いなー。網目細かすぎるよあれ」
 「とーぜん! 三橋はすっげぇんだぞ!」
 「そ、んなこと、ない、よ」
 あっという間に俺の周りに張り巡らされた三橋の結界。
 そっから流れ込んでくる阿部の攻撃の元になってる力、俺の刃に溜め込んでまだ放たない。
 「でもって田島の剣もきっらきらなんだけど。あのさー、阿部」
 「お前は黙って壁張ってろ」
 「あー、俺も可愛い運命見つけたいなー」
 「俺の運命は三橋だ」
 「違うって言ってんじゃんかー。もー」
 ぶんぶん飛んでくるの、全部受け止めて俺の力に変えて。
 温かくて優しい力。
 三橋が俺を想う力。
 「なー、ほんっとにあいつ倒しちゃダメ?」
 「だ、って、阿部、くん、なのに」
 「! 聞いたか水谷今の三橋の」
 「んー、阿部もお友達認識されてるんだねーってとこ?」
 ふうって、水谷がため息付いた瞬間に、あっちの壁。
 すっごい薄くなった場所、一箇所だけ狙って。
 「っつ!」
 「ぎゃあっ」
 「弱いものいじめは三橋が嫌がるからしねーけど。俺、手加減しないよ?」
 三橋がちょっとだけ阿部をかばったの、嫌な感じ。
 ほんとはばーんって力全部ぶっけたら、壁ごと阿部も水谷も吹き飛ばせるけど。
 「今日は引いてやるよ」
 「またねー、お二人さーん」
 必要以上に俺が力を使うの、三橋が一番嫌がるから。
 しないだけ。
 「た、じま、くん?」
 「三橋ぃ、俺、ちょー痛いとこあんだけどさ」
 剣、体の中にしまって、足場が危なくないとこまで三橋の手引いて歩いてから。
 ぎゅーって抱きしめたまんましゃがみこんだ。
 「た、じまくん、どこ、痛いの、すぐ、俺が」
 泣きそうな声と顔。
 こんな顔にしたいんじゃないし、こんな風に呼ばれたいんでもないのに。
 「三橋の運命、ちゃんと、俺で合ってる?」
 「え?」
 「俺の運命は三橋だって、思ってるけど。三橋の運命は本当に俺で合ってる?」
 時々凄く不安になる。
 壁の姫、なんて。
 女なんかじゃないのに、三橋のこと狙う奴は凄くいて。
 モノみたいにされてるの、知って。
 俺の名前、言って。
 名前、聞いて。
 呼ばれて呼んで。
 その瞬間に、運命だって。
 絶対にこいつを守る剣は俺だって、分かったけど。
 「俺、は、運命、は、良く、分からない、けど」
 ぎゅって、珍しく三橋から俺の背中に回してくれた腕から、温かいのが流れ込んでくる。
 俺が守りたいって、思うのは、三橋だけ。
 「ずっと、田島、くんと、一緒に、いたい、です」
 「うん。俺も」
 「だ、から」
 泣かない、で?
 え、っと思ったときには目元にやらかい、いつも俺を治してくれる三橋の唇が当たってた。
 「痛いとこ、どこ?」
 「もーない。俺、もう、全然へーき! ありがとな、三橋」
 「うん」




 好きじゃ足りない、俺の運命。
 誰にも、絶対に譲らねえから。 


期間限定キリリク「52001」
すもも様へ。
ご本人様のみ持ち帰り可、です。

リク内容は
拍手倉庫の水の中のナイフ設定のタジミハでした。