桜闇 第八夜 水は火に剋ち −慕想迷走(シタフオモヒハマヨヒハシル)−


 俺の存在が貴方を苦しめるのなら。


 「いつだって、俺は除け者なんだ」
 五行が乱れた原因も。
 夜澄と夏也が苦しんでいることも。
 美咲都は知らされぬまま、想いに従って力を揮って夜澄を―――慕っている人を傷付けた。
 美咲都だけが知らなかった。自分以外の誰もが知っていた。
 「美咲都、止めろ」
 肩で息をしている譲理が美咲都と夜澄の間に立った。
 「俺が……俺が夜澄さんのことを好きだって気持ちが貴方を苦しめる原因になっていたの?」
 一言発すれば水気は溢れ、火気を抑える為に力が割かれてはいるものの呼応して木気が膨らんでいく。
 「神凪、君」
 身の内に留められる以上の木気を、最早気力だけで縛り付けている夜澄が蒼白な顔で美咲都に答えた。
 「私が、望んだことだから」
 自らの消滅を。忌まわしい木守の所業の証である自分自身を滅し尽くしてしまいたい、と。
 「夜澄」
 少しでも夜澄の気を抑えようと、夏也が夜澄を美咲都から引き離して支える。
 「ねぇ、じゃぁ俺の想いは貴方を殺してしまうの? だったら……」
 刹那、水気がその流れを凍りつかせ……爆発した。
 とめどなく溢れる水気を受け止め、吸収してしまう木気を夜澄も夏也も必死で抑えるが、すぐに限界が近づく。
 少しでも油断すれば激しすぎる流れとなって譲理を蝕むことは間違いないであろう木気を、唇を噛むその痛みだけで正気を保っている夜澄に、笑いかけたのは譲理だった。
 「夜澄、それ俺に寄越せ」
 「美坂、お前」
 「十折も。抑えるの止めろよ。俺にぶつけて大丈夫だから」
 「しかし」
 「気にすんなって。今の俺なら受け止められるかもだろ? お前らみたいに何に蝕まれてるわけでもないからな」
 濃い褐色のレンズの下、いつに無く強い光を宿した双眸が夜澄に向けられる。
 「駄目、です」
 躊躇わずに譲理と視線を合わせ、きっぱりと拒絶の言葉を口にした夜澄に譲理は期待通りの反応だとでも言うように笑った。
 「だろうな。でも」
 譲理は夜澄の身体を無理矢理引き寄せた。
 「俺が望んでるんだよ、夜澄」
 「美坂さん」
 夜澄の悲鳴のような声が上がったと同時に大量の木気が譲理に奪われた。
 身の内に留めていた、全てが。





あとがきという名の言い訳
いやぁ、先週予告したとおり極道なところで切れています。ご容赦下さい。
本当にラストが近づいている感じですね。のであんまりコメントできません。
さっくりと次週予告。
「火は金に剋ち」です。サブタイトルは「預花祈一(ハナヲアズケテイノルハヒトツ)−」。

最後まで全力投球で行きたいと思います。もう暫くお付き合い下さい。

20021207 
再アップ20080207