桜闇 第十夜 金は木に剋つ 夜闇交願−(ヨルノヤミニネガヒヲマジエル)−


 この存在自体がたとえ罪であっても。
 生きたい、と。
 願ってしまったから。


 「因果なものだな」
 全てを預けて欲しいと願う相手には決して振り向かれることはない。
 「何が、ですか?」
 闇色の双眸が捉えるのは『道具』や『穢す恐れのないもの』。……自分は彼の力を抑えるだけの者であるのだから前者に相違ない。
 どんなに焦がれても、願っても。
 「お前の双眸に俺は映されはするが、それは俺がお前の中の気を静める者だからという理由に過ぎない」
 「……そう、思いますか」
 「どちらにしろお前の双眸に映ることが出来る。それを役得だと思うことにしたさ……抱くぞ」
 譲理に奪い取られ一時的に治まりはしたものの、荒れ狂う木気は未だ眠りに就かない。
 じわじわと夜澄の肉体を蝕み続けているそれを抑えることが出来るのは自分だけなのだと自惚れることにした。
 

 絹の様な漆黒の髪に指を絡ませ、吐息を交わす。
 死に装束と綽名される純白の衣の袷を開き、衣よりも滑らかな肌に決して所有の証にはなり得ない跡を刻み込んでゆく。
 「夏也さん」
 「どうした?」
 いつもどおり敏感な反応を返す身体に酔うことなどせず、互いに持て余している力をほんの刹那放出する為だけのこの行為にさして言葉など必要なかった。
 嬌声が上がることもなければ相手を酔わせる睦言もない。
 ただ、そうしなければ肉体が持たないから。それだけの行為だった。
 「私が、本当に貴方を見ているとしたら、どうなさいますか?」
 熱に浮かされて潤んだ双眸に映り込むのは同じく熱に浮かされた自分。
 願うように囁かれたその言葉に応えるのに、言葉という手段を夏也は選びはしなかった。
 「…………っつ」
 今まで夏也に触れられることを拒んできた首筋に、一際強く深く、赤い花を咲かせる。
 祈りにも似た、願いを込めて。
 「言葉も捧げるか」
 口に出せばすぐに空気に溶けてゆくような頼りないものも希むか、と問う声に返されたのは初めて見る柔らかな笑み。
 「生きて、いたいです」
 「お前の中に巣食うものを抑えることしか出来ない」
 「貴方にしか抑えて欲しくない」
 「……従兄弟に殺されるな」
 「貴方しか要らない」
 「俺もお前しか必要ない」


   二人共に在ることが、たとえ罪だとしても。
 生きて欲しいと。
 願ってしまったから。





あとがきという名の言い訳
いやぁ、ちゃんと十話まで来ましたねぇ。残すは終幕のみですか。
本当に、あっという間でしたねぇ。

とりあえずハッピーエンドっぽいのですが、どうでしょうか。

いえ、まだ終わったわけではないのですが。

本当にコメントしづらいですね、今回の話は。
コメントしようがないんです。言い訳なら山ほどあるのですが。
まず、遅れた。それも二週連続。……今週の土曜日に会いたいな、と。
そしてこの短さ。暗転部分とか探してもないですよ。これだけですよ。

まぁ、何はともあれ終幕をお待ち下さい。

20021222
再アップ20080207