一つぐらい、俺にも残させろ。 君に消えない傷をあげる 「君の身体は傷跡大図鑑だな」 「何それ」 「銃創に刀傷、火傷に縫合した痕」 何もイモ洗いされに行かずとも、と俺なんぞは思うが。 九龍は共同風呂を好む。 まぁ、あれだけ土塗れ埃塗れになれば身奇麗にしたくもなるというものだろうが。 シャワーでこと足りるだろうに、わざわざここまで足を伸ばす。 「あー、父親もこんなんだったよ?」 「親父さんも《宝探し屋》なのか?」 こいつに会いにわざわざここまで足を伸ばす輩も少なくはない。 大和が良い例だ。 勘が良いのだと本人は言い張るが、こいつの部屋に盗聴器でも仕掛けているのではないかとたまに思う。 「今も現役」 身体を包んでいた泡を洗い流せば、代わりに浮かび上がるのは幾つもの傷痕。 そういえばこいつはここに来てからも結構な傷を負っているのではないだろうか。 「うわ、センパイ何スかその引き攣れてんの」 「んー、トラップ?」 自分のほうが痛そうな顔をして。 それでもじろじろと不躾な顔で身体を覗き込む不届きな後輩には。 「って! 何すんですか!」 「悪いな。足が滑った。九龍、もう上がるぞ」 「あーい。じゃ、おやすみ大和、凍也」 警告を与えて、さっさと立ち去る。 小柄な割に引き締まった肉体。 しなやかな筋肉に覆われ、けれども内側まで抉ったに違いない傷が多数ある。 「多いな、本当に」 「新米だからね。もっと成長したいもんだよ」 がしがしと乱暴に身体を拭くと、お決まりのTシャツとハーフパンツに着替える。 見ているほうが寒い。 「お前、いい加減に」 「代謝が良いから暑いんです」 「……そうかよ」 身を屈めて、首筋に噛み付く。 幸いなことに脱衣場には誰もいないし入ってくる気配も無ければ出てくる気配も無かった。 「甲太郎?」 「明日からしっかり一番上までボタンを留めないとな」 指先でつついてやったところを鏡で確認した九龍からは悲鳴とも怒号とも取れない叫びが上がった。 「甲太郎!」 「たくさんあるんだ。一つぐらい構わないだろう?」 「そういう問題じゃない!」 珍しく首から上を真っ赤に染めて。 ぎゃいぎゃい騒ぐ九龍に、笑みを零す。 「足にもつけてやろうか?」 「要らんわ!」 俺の嫉妬など、こいつに届きはしないのに。 end