笑顔で、さしのべる。 繋いだ手 「じゃあ、帰ろうか」 「そうだな」 「そうね。夜更かしはお肌の天敵よ!」 遺跡で、呪いから自分を解放してくれた、その人は。 「帰ろう、砲介」 今まで自分を殺そうとしていた相手に、笑顔で。 「葉佩、ドノ?」 「どうかした?」 「いえ、その、自分は」 ほら、とてのひらを向ける。 どうして、そんな、ことを。 「あ、えーっとすどりん、ハンカチ持ってる?」 「勿論よ。はい、ダーリン」 「後で洗って帰すから」 ごしごしと手を拭って、もう一度。 「さぁ、帰ろう」 やはり、手がさしのべられる。 自分に、だ。 「あ、もしかして手を繋ぐのも嫌だったりする?」 「いえ、そうではなく」 「なら良かった。ほら、帰ろう」 しかし、自分には。 この手を取る資格など。 「墨木」 「……なんでありましょうか」 「さっさと握ってやれ。でないとこいつはここから一歩も動かない」 「皆守ドノ?」 「そうよ、砲介ちゃん。ダーリンってば意外と頑固なんだから」 この人に触れて良い資格など。 持ち合わせては、いないのに。 「何故でありますか?」 「何故って……もう終わっただろ? だから一緒に帰るんだよ」 「自分は」 「もう友達」 言い切って、自分の手に自ら触れて、重ねて、引く。 グローブの上からも、触れる指先からも、伝わる熱。 ……誰かの手を握るのなんて、久しぶりすぎて。 歩き出せずに、いたら。 「ほら、さっさと歩きやがれ。後がつかえてるぞ」 「んまぁ! 甲太郎! あたしのダーリンになんてこと!」 「お前に名前を呼び捨てにされる覚えはない!」 「あら、やきもち? でも駄目よ。あたしのダーリンはダーリンだけ。あんたはあたしのダーリンにはなれないのよ」 「…………行くぞ、九龍。これを置いて」 「駄目だよ、甲太郎。行くときよりも人数が増えるのは喜ばしい限りだけど減るのは俺の主義に反する」 さぁ、行こうと。 力強く、手を引かれて。 自然と足が一歩、また一歩と前に踏み出る。 「葉佩ドノ」 「なに?」 「自分は、この手を」 取る、資格がないのであります、と。 言うよりも先に。 「繋いだ手は、いつだって簡単に解ける。けれど一度繋がった心は、そう簡単には解けない」 「……葉佩ドノ」 「大切な人が教えてくれた」 ああ、この人は。 呪いから自分を解放してくれただけではなく。 光さえ。 与えてくれる。 「ありがとうございます、葉佩ドノ」 繋いだ手は離されず。 たどり着いた地上で、自分はこの人のためならいつだって駆けつけると。 そう、誓った。 end