伸ばしかけた、手は。 シーツの波間 もぞもぞ、と。 何かが動く気配は、分かったが。 目を開けるのが億劫だった。 高めの体温が、ひたひたと寄ってくる。 「九龍」 「あれ? 起きた?」 「他のベッドが空いてるだろうが」 確か俺がここで眠りに就いたときは全て空いていたはずだ。 「鎌治に白岐で満員です」 「……そうかよ」 だからといって俺の眠りを妨げなくともよいだろうと。 言いかけて、目を開ければ。 いつもとはかすかに違う何かを感じ取って、ため息に変えた。 この寒いのに屋上に行く趣味はない。 かといってこの風邪っぴきを見放してもおけない。 「もっと寄れよ」 「でも」 「落ちるだろうが」 抱き寄せようと、手を伸ばしたところで。 「龍、そこの仮病人を……おや、お邪魔だったかな?」 腰に触れる寸前で、止まった手。 にやにやと性質の悪い笑みを浮かべた保険医。 「まったくもっていい性格をしてるな」 「何、保健室をピンクのオーラで染め上げられても困るだけのことだ」 舌打ち一つ。 手を引いて、九龍の頬に触れる。 ……熱い。 「甲太郎?」 「ほら、とっとと寝ろ」 仕方がなくベッドから降りて、傍らの椅子を引き寄せる。 「これなら文句はないな?」 「睦言を交わすときは互いの耳元でにしたまえ」 「ふざけんな」 既にうとうととし始めた九龍の。 額に張り付いた前髪を払ってやろうと手を伸ばせば。 「おや、ここは満室か」 「……お前」 「お楽しみの時間を邪魔したな」 今度は、大和だ。 一体どうなってやがる。 「甲」 「黙って寝ろ。もしくは俺に抱えられて寮に帰るか?」 「甲と、一緒がいい」 ほわらと笑みを零して、瞼を閉じる。 …………ちくしょう。 「おい、まだそこで聞き耳立ててやがる野郎」 「聞き耳とは失敬だな」 「あとで俺と九龍の鞄を持って帰ってきてくれ」 ベッドから抱き上げてカーテンを足で開けば。 「……酷いことはしないであげてね」 「誰がするか」 最後は白岐だ。 揃いも揃って俺を何だと思っていやがる。 「運動などもってのほかだぞ、皆守」 「ふざけるのも大概にしやがれ」 寮に着くまでに。 次から次へとあからさまに俺を何かと勘違いしているとしか思えない言葉を投げかけられ。 それなら想像通りにしてやろうかとも思ったが。 「こ、う」 熱でひび割れた声に、そんなものは消えうせた。 「安心して眠れ。そばにはいてやるから」 焼ききれそうな理性を総動員して。 end