そんなに不機嫌そうに見えたのだろうか。 ねえ、笑って 「迷惑だった?」 「何が」 「誘ったの。ここさ、しわ寄ってるから」 穴あきグローブの先の長く器用な指が眉間に触れた。 「いや、拙者は」 見上げてくる双眸は濁した言葉を逃さずに。 「それとも誰かさんも誘ったほうが良かったかな」 「……葉佩」 「冗談だよ。でもしわが寄ってたのは本当」 思い当たる節がありすぎる言葉に不機嫌に返せば、笑顔が浮かぶ。 人を馬鹿にするそれではなく、実に楽しそうなそれが。 「見事だと、思っていたのだ」 「真里野にそう思われるのは光栄だな」 得意の獲物は日本刀。 その刀捌きは実に見事で、後ろから見ていても十分にその実力が知れる。 「うかうかしておれんな」 「まだまだだよ、俺は」 言いながら、次の間へと移動し、立ち塞がる異形を次々と切り倒す。 返り血を浴び、泥まみれになり。 それでも先へ進むその歩みを止めようとしない、前だけを見据える瞳。 「こやつらは、一体何なのだ」 「一言で言えば、亡霊」 「亡霊?」 「だと、俺は思ってるよ。この異質な地に繋ぎとめられてしまった哀れなモノだと」 振るう太刀筋には微塵の迷いも見えない。 それを、奇怪だと思っていた。 けれど。 「生命活動を停止させる以外に、救う手段があるとは思えないんだよね」 「救う、か」 決して傲慢ではない。 自らも、救われた、のだ。 この刀で。 迷いのない、信念に。 「まぁ、所詮墓を暴いてる人間の言い訳だよ」 自嘲を込めた笑顔は、似合わない。 「葉佩」 背後を狙って接近してきた異形を斬り、声をかける。 「お主には、そのような笑顔は似合わぬ」 「真里野?」 「お主は、もっと幸せそうに笑うのが……」 何を言おうとしているのかと、口を閉ざせば。 「……ありがとう」 継がなかった言葉を察して。 それは、それは。 嬉しそうに。 「あら? 剣介ちゃんなんか良いことでもあったの?」 「茂美殿」 「良い男が良い表情してると更に良いわねぇ」 自然と笑顔を零すようになった、ある日のこと。 end