笑顔でいてほしいと思うのでしゅ。 大したことは出来ないけれど おなかが空いたら悲しくて。 淋しくなって。 良い考えも浮かばないし。 悪い方向へ悪い方向へと、何でも。 思って、しまうから。 そうすると、自ずと結果も悪い方向へ、悪い方向へと。 進んでいるような気がして、いらだってしまうから。 「九龍くん。まずはごはんでしゅ」 「ごはん……」 「そうでしゅ。良い考えが思いつかないときはごはんでしゅ。ね、皆守くん」 どうしても装置が解除できなくて。 石碑の前でずーっと頭をひねって。 考えても考えても、前に進めなくて。 「まぁ、悪くはないな」 「そうでしゅ。あったかいごはんってわけにはいきましぇんから、そうでしゅね、夜食でしゅ」 チョコレートの甘さは頭を動かすエネルギーになる。 苛立ちを抑える効果もあるし、幸せな気分にする効果だってある。 「このチョコは特別なんでしゅよ。リラックス効果があるんでしゅ」 どーぞ、と差し出せば、困った顔をしながらも受け取ってくれる。 でもそこで目を離したら駄目なのだ。 きちんと栄養として摂取してくれるまで見届けなければ。 「じゃあ甲太郎には必要ないね」 「そーでしゅね。いつもリラックスしてましゅからね」 チャックつきのビニールのパッケージを開いて。 豆粒大のそれを、手のひらに出すのは止めて直接口の上でひっくり返す。 がりがり、もぐもぐ。 ほんの少し、チョコレートの溶ける甘い匂いが漂う。 「どうでしゅか?」 「うん、美味しいよ。ありがとう、タイゾーちゃん」 にこり。 いつもの笑顔がやっと戻って一安心。 ちらっと横を見れば、皆守くんも一安心した顔。 良かった。 積極的に攻撃に参加するとか。 何かを察知するとか、そういう役には立たないけれど。 「さて、もっかい考えてみるかな」 うーんと大きく背筋を伸ばして。 もう一回石碑と向き合った九龍くんを見て、ボクは。 「もっとできたら良いんでしゅけど」 「……何をだ?」 「何かを、でしゅ」 思わず呟いて、皆守くんを見た。 いつも九龍くんの傍にいて。 必要なときに必要な言葉を。 与えられる、皆守くんを。 「ボクには大したことなんてできないんでしゅ」 うらやましいと、思う。 ボクは九龍くんが何々だったらってたくさん思うけれど。 思うだけで、実際に何かの役に立てているわけではないと思うから。 「笑ったじゃないか」 「え?」 「さっき。あいつが笑っただろう。それだけでも十分じゃないのか?」 俺は怒らせるだけだからな、なんて。 九龍くんだけじゃなくて。 皆守くんも、本当は。 優しくて。 だからこそ、お似合いの二人だってことが。 やっと、分かった。 「……そうでしゅね」 やった、ギミック解除できたよ! と。 振り返った九龍くんの笑顔を見て。 ボクは心の底から思った。 end