あれの、どこが。 意地悪 「おや、今日は彼はいないんですか?」 「? ……ああ、甲太郎? 眠いって言ってたよ」 いつでも力になる、と。 連絡先を渡したのがつい先日。 「どうして僕を? それも一人だけ」 「神鳳と二人で話す機会ってあんまり無かったから」 あっさりと言い放つとロープを垂らして先に潜っていく。 結構な重装備なのに、彼はとても俊敏な動作をする。 「今日は僕と二人きりだと皆守君は知っているんですか?」 「は?」 「君の保護者は過保護だと有名なんですが。知りませんか?」 矢継ぎ早に繰り出される質問の意図が全く読めない、などということは無いだろう。 勘の鋭さ、相手の心のうちを読む能力に秀でているのだから。 そうでなければ、この僕までもが呪いを解かれるという事態に陥りはしなかった。 「……神鳳って質問するのが好きなのか?」 「君のことが知りたいだけですよ。今晩君が僕を誘ってくれたのと同じようにね」 誰の心にもたくみに入り込む笑顔を。 「しつこいと嫌われちゃうからね」 一瞬だけ崩して、元の笑顔に戻る。 それが、もっと素の表情を見たいという。 欲求に繋がるとは、きっと思っていないのだろうけれど。 「君が、彼に、ですか」 「何その顔」 「ありえないと思っただけですよ」 そう。 彼があんなにも自分を。 望みを曝け出す姿など見たことがない。 口では面倒だと呟きつつも、結局のところは付き合っている。 深入りしないほうが彼のためだと。 余計な口を出すのもはばかられるほどに。 「なんでそこで神鳳が言い切るかな」 それは彼が何を君に隠しているかを知っているから。 知られたくないと、事情を知っているものから見れば哀れなほどに願っているから。 「だって君は彼が好きでしょう? それに彼だって君を嫌ってはいない」 開きかけた口は言葉にならない音を紡ぐばかり。 「見てれば分かりますよ。しかしあれのどこが良いんですか?」 君が彼を好きなことも。 彼が君を好きなことも。 ほんのひとときだけでも、二人で共に在る姿を見れば。 分かって、しまう。 意識をしなくとも。 「……神鳳って、意地悪だったんだな」 「素直じゃない子供は好きな子には意地悪になると言うでしょう?」 グローブの上から手の甲に軽く口づけを落とし。 「さぁ、どこを探索するんですか?」 にっこりと笑顔で尋ねた。 end