battle 基礎クラスから専攻に上がると、基本的に他の専攻の生徒との交流が減る。 授業はそれこそ専門分野で埋め尽くされるし、訓練だって演習だって自専攻と他専攻では重ならない。 ので基礎クラスのときに親しくしていた相手とであればすれ違ったときに挨拶の一つくらいは交わすが。 どこの何の専攻なのか分からない相手とは自然と距離を開けるもの。 共同生活を送っている同居人たちは除く、が。 「あ、大丈夫だよ三橋。別に取って食われたりしないから」 「栄口、くん」 「昼一緒に食べよ? 後で紹介するから先にメシ持ってきちゃいな」 「うん」 素直に返事をした三橋の背を見送る栄口を生温い目で泉は見た。 「誰が誰を取って食うんだよ」 「だって泉有名だよ? 先輩をフルボッコにしたって」 「元先輩だろ。つか初めて会う相手に暴力沙汰はねえ」 「何言ってんの。初対面で同居人に飛び蹴り食らわせたって伝説の男が」 「不可抗力だ」 きっぱりと言い放った泉は白兵戦専攻で同専攻の花井と親しい。 花井つながりで知り合った栄口は薬学専攻。 薬学専攻に限っては他専攻と華やかな交流を主に治療という名目でしているので他専攻の知り合いも多い。 「で、同居人はどうしたの?」 「水谷は補修で真柴はどっか行った」 「もしかしてあんまり家の外だと会話しない?」 「かもな。あ、帰ってきたぞ」 トレイを持ちながらよろよろとした足取りで三橋がこちらに向かってくる。 並々と麦茶が注がれたグラスがいつひっくり返るのかは恐らく時間の問題だ。 「廉!」 「!」 大声に驚いた三橋の手元が大きく揺れる。 あの状態の三橋に声をかけるとは何事かと顔をしかめた栄口の視界に入ったのは三橋と同じ銃火器専攻の叶。 叶は波立ったグラスをひょいと救い上げ、にっこりと笑顔で三橋に話しかけた。 「あいつ、何?」 「三橋の幼馴染で同じ専攻の叶。あの分だと一緒にメシ食おうって誘ってるんじゃないかな」 「ふーん……行ってくる」 「え?」 呼び止める間もなく席を立った泉を驚きの目で見送る他栄口には何もできない。 昼間の学食は席の争奪戦で殺気立っている。一度手に入れた席を、それも三人分失うのはなんとも手痛い。 「なあここ空いてるか……って、栄口」 「あ、花井。うん、一応四人分あるから良いよ」 「四人分?」 「うん」 早速目を付けて来たのか、と思ったら相手は花井だった。 快く泉の隣の席を示し、次に三橋に視線を転じれば。 「泉って、下に兄弟いるんだっけ?」 「? いや、自分が下だって聞いたけど。あ、泉と三橋?」 「うん。なんか気に入っちゃったみたい」 何らかの方法で叶に勝利したらしい泉が三橋と麦茶のグラスともどもこちらに向かってきていた。 というか三橋のトレーが既に泉の手の中だ。 「おかえり?」 「ただいま。花井も来たのか」 「ああ。邪魔させてもらう」 「確かに邪魔だな」 真顔で言い放った泉の顔を栄口と二人で見るが、本人は至ってどこ吹く風だ。 これは相当気に入った、或いは。 「い、ずみくん、は、いいひと、だ!」 「そっか。それより冷める前に食っちゃおうぜ」 「「「「いただきます」」」」 きらきら両目を輝かせる三橋に落ちたか。 できれば前者であって欲しいなあと思いつつ定食に揃って箸を付ける。 後者だったら自分たちと共に保護者を自負している叶に後で言い訳をしておこう。 ちょっと馬の骨飛んできちゃったかも。 「三橋、ソース付いてる」 「う、ぉ」 「そっちじゃねえ。……ほら、取れた」 「あ、りがとぉ」 初対面の人間に対してはとんでもなく人見知りするはずの三橋が懐いている様を見たらハンカチを食いしばるかそれとも涙を拭うか。 そことなく探っておいてよという栄口の無言の圧力に花井はしぶしぶ首を縦に振った。