dandelion 銃火器専攻には他の専攻では既に廃れてしまった習慣が未だに根強く残っている。 先輩が後輩にコードネームをつける、というもの。 被りすぎで訳が分からんと言う理由で廃止になったそれは、1専攻だけなら混乱しない、と。 そんな単純な理由で残っている、と言うのと同時に。 名前を与えた先輩と後輩はなんか特別な関係を結ぶと言う習慣も残っていて。 まあ、後者の認識の方が強すぎて今ではその習慣も廃れつつあるのだけれども。 「秋丸、たんぽぽって英語で何」 「は? ダンデライオンだけどそれが?」 「分かった。さんきゅーな」 銃火器専攻の榛名は今年から専攻に配属された一年生に面白いのを発見した。 基礎クラスのときは見た記憶がないから、他の『ガーデン』にいたのかもしれない。 そんなのはどうでも良い。問題は面白いのが他の誰かに既にあれをされていないか、ということだ。 「おい、そこのお前」 「!」 探し人はすぐに見つかった。 元々銃火器専攻は人数が少ないのも手伝って授業時間内は目当ての人間を見つけるのが簡単だ。 頼りなくひょろりとした背中ではなく色素の薄い柔らかな髪が目印。 榛名の声に固まった影にすたすたと近付く。 「今年から専攻だろ、お前」 「っ、は、い」 二年目くらいになると制服の襟やら胸やらにバッジが付く。 それがない、イコール無印はひよっこの証。 「コードネーム誰かにもらったか?」 「コード、ネーム?」 「そ。銃火器専攻くらいしか付けないやつ」 ゆらりと首が傾げられるということは、多分誰のものでもないと言うこと。 満足そうににんまりと笑う榛名に目の前のふわふわ頭の少年、三橋は目を白黒させる。 知らない先輩に呼びかけられた上になぜかその人は笑っている。 「俺は榛名元希。お前は?」 「三橋、廉、です」 「廉、ね。ま、良いや。お前にコードネーム付けてやる」 最後の部分を強調して大きめに言えば、三橋ではなく周りの生徒がざわめいた。 色々と問題児の榛名が、いたいけそうな後輩を捕まえてコードネームを付けると宣言している。 「良いか、お前のコードネームは」 うわあ、あの後輩榛名の餌食になっちまう、と。 追いかけてきた秋丸を含め(秋丸は銃火器専攻ではないがその習慣はもちろん知っている)周囲が青ざめた。 そのとき。 「「ダンデライオンだ」」 声が二つ重なった。 榛名の声ともう一つは。 「てめぇ高瀬!」 「あー、間に合った間に合った」 同じく銃火器専攻の、榛名とは違った意味で問題児の高瀬。 駆け寄ってきても呼吸一つ乱さないのは、まあ、基礎ができているから。 「なあ、指名が二つ重なったときってどうなんだ?」 「それも同じだったぞ」 辺りは一瞬にしてざわめきを取り戻す。 前代未聞のコードネーム命名に、状況を把握していない後輩の心配よりも好奇心が勝った。 「あ、の」 「あー、ちょっと待ってろ廉。今すぐカタつけっから」 「お前なに呼び捨てにしてんだよ。あ、俺高瀬準太だから。よろしく、三橋」 「あ、はい、よろしく、お願い、します」 三橋を間に挟んで火花を散らせる二人に近寄るものは今のところいない。 というかお互いに譲り合いの精神を発揮している。だって馬に蹴られたくはないから。 「前例探すの手伝うから、とりあえず睨み合いは止めといたら?」 どうしてここの専攻じゃない俺が、とため息を零しながら生贄に選ばれた秋丸が声をかける。 銃火器専攻じゃないから公平な審判を、という理由での選出だ。 前例がなかったので三橋は二人の名付け先輩を持つことになった。 銃火器専攻2年目内では密かにどちらが特別な関係の先輩になれるかが賭けの対象にされている。